日本でもインフレ予想は物価上昇に先行した

 その一つが、消費者のインフレ予想だ。

 上図は、日本を含む5カ国の消費者を対象に、「この先1年間で物価はどうなると思いますか」と尋ねた際の結果を示している。

 この問いに対して、21年までの調査では日本の消費者の約3割はまだ、「物価は据え置かれるだろう」と回答していた。異端の国・日本に住む消費者がそのように予想していたのはごく自然なことだ。これに対して、米欧の消費者の多くは「物価が上がるだろう」と回答していた。

 ところが、22年5月に行った調査では、それまでと明らかに異なる傾向が表れた。日本の消費者も米欧の消費者と同様に「物価は上がるだろう」と予想し始めたのだ。日本の消費者のインフレ予想が米欧の消費者並みに高まったと言ってもよい。

「同期」という観点で注目すべきは、日本の消費者のインフレ予想が上がったタイミングだ。この調査を行ったのは22年5月である。当時、日本のインフレはまだ始まったばかりで、インフレ率は2%に達していなかった。

 インフレ率はその後、上昇し、年末には4%に達することになる。繰り返すが、消費者のインフレ予想が高まった22年5月時点のインフレ率は2%にも達しておらず、4%に達する気配すらなかった。

 つまり、日本の消費者は、実際の物価上昇を織り込んでインフレ予想を高めたわけではなく、物価上昇に先行してインフレ予想を高めたのだ。

 では、なぜそんなことが起きたのか。

 常識的な説明として考えられるのは米欧の高インフレだ。米欧では日本より1年早く、21年春からインフレが始まり、10%に達する高い率のインフレが社会を混乱に陥れていた。その混乱ぶりがマスメディアやSNSで伝えられる中で、同じことがいずれ日本でも起きるのではないかと心配し、それがインフレ予想を引き上げたと考えられる。

 この現象は、米欧の消費者のインフレ予想が日本の消費者に伝染したとみることもできる。