1年前に想定していなかった「異常な領域」

 それは、物価・賃金・金利が正常になるどころか、当時の米欧がそうであったように、インフレ率や金利が高過ぎるという意味での異常な領域にまで到達することである。

 この認識こそ、1年前の私にはなかった視点だ。つまり、現時点では、ウイルスによって物価と賃金が不安定化した米欧と同じことが日本に起きる可能性はゼロではないと考えている。その意味で、日本が米欧と「同期」する可能性もゼロではない。

 そう考えるようになったのは、後述するように、執筆後に起きたいくつかの現象やデータがその可能性を示唆しているからだ。さらにもっと底流には、パンデミック初期の20年に藪友良慶應大学教授と行った、日本人の行動変容に関する研究で得た知見がある。

 一連の研究で分かったことは、日本人の行動変容は米欧など世界の人々の行動変容と驚くほど似ていたということだ(詳細は拙著『入門オルタナティブデータ』第9章を参照)。

 つまり、ウイルスと人類の闘いに国籍は一切関係なかった。それを踏まえれば、労働供給の減少などウイルスが残していった経済面での後遺症も各国共通となってもおかしくない。

 あらかじめ断っておくが、私も日本と米欧の「同期」説を全面的に支持しているわけではない。1年前と比べれば、その確率が高いと考えてはいるものの、いまなお半信半疑だ。

 しかし、米欧と同じような高インフレが起きる確率がゼロでない以上、その可能性を頭の片隅に置いておくことは、リスク管理の観点から望ましい。

 では、日本と米欧の「同期」をにおわせる現象とはいったい何なのか。この現象は「同期」の表れと考えた方が理解しやすい、そういう現象はいくつかあるように思う。