金利裁定説では、日本のインフレ予想が高まることなく、名目金利が米国金利に引っ張られて上昇するので、実質金利(=名目金利-インフレ予想)は上昇する。
これに対して「同期」説の場合、名目金利の上昇はインフレ予想の上昇によるものなので、実質金利(=名目金利-インフレ予想)は変わらない。投資活動などに大きく影響を与える実質金利が違えば、物価や賃金への影響も当然異なる。同様に、為替相場への含意も大きく異なる。
海外投資家は「同期」説を支持
ここまでを整理すると、日本の物価・賃金・金利についての見通しは、大きく3通りに分けられる。
一つ目は、物価・賃金・金利が正常化するとの見方だ。これは筆者が1年前に書いたシナリオに近く、国内でも徐々に広まりつつある。
二つ目は、現在進行している物価と賃金の上昇は一過性で、いずれ物価と賃金は毎年据え置き、そして金利はゼロという「異端」のポジションに戻ることだ。この見方も、国内では依然根強い。
そして三つ目は、米欧が経験してきたような賃金高・物価高に向かう、それに応じて金利も(長期だけでなく短期の金利も)米欧のような高水準になるという見方だ。これが「同期」説であり、国内では極めて少ない。筆者自身も、「同期」はあり得ると思いつつもその確率は低いと考えており、多くの日本人と大差ない。
ところが、海外の見方は大きく異なる。海外の投資家やポリシーメーカーたちと意見交換すると、日本の国内事情や、日本が「異端」であった過去を熟知している知日派であっても、「同期」説を信じている人が少なくないことに驚かされる。
筆者を含め「異端」の過去を長く実体験してきた日本人はその感覚から抜け出せず、「同期」と言われても実感が持てない。それが海外投資家たちとの見方の違いを生んでいるのだろう。
国内外で見方が分かれる現象は、いつの時代でもある。しかし、今起きている見方の違いは少々厄介だ。海外投資家は、日本の物価や賃金はまだまだ上がると見込んでいるので、日銀は今後、米国や欧州の中央銀行が昨年そうしたように、矢継ぎ早に政策金利を引き上げると信じている。その結果、国債などさまざまな金融商品の価格に「同期」説が織り込まれていく。
結果、海外投資家が「やはり日本は『異端の国』だった」と失望することになるのか。それとも、日本人が「異端」の過去と決別し頭を切り替えることになるのか。日本の物価がどの道に向かうにせよ、平坦ではないだろう。政府・日銀は、特定のシナリオを決め打ちすることなく、万全の備えで臨むべきだ。