「松本、そう言えば、なんかノートに落書きしてたな、案山子みたいな絵。あれ可愛かったな、それにしよう。俺たちのマーク。旅館の人に言ってマジック借りてこいよ」

 さださんはグンゼの丸首五枚にマジックで同じ絵を書きます。男5人、それを着て、首に黄色い温泉タオル、頭に緑のサンバイザーを着用します。

「さだ先輩、サラシはどうするんですか?」「旗に決まってるだろう!」さだ先輩は、グンゼの丸首と同じ絵を旗サイズに切ったサラシに描きます。

「旅館の人にセロテープ貸してもらって来い。旗をボンネットに貼ろうぜ」「ボンネットって、新車のベンツのボンネットに?セロテープで?」

「ん? ガムテープの方がいいか?」「いや粘着力の問題でなくて……」

 さださんの車は、納車から3日目のベンツでした。450SLCという当時の名車。その白鳥のような白く美しいベンツに洋品店のサラシ、マジックで手描きの旗。それに乗り込むおそろいの肌着に黄色いタオル、緑のサンバイザーの男5人。

 私は高2にして「人生の楽しさは作れるのだ」と教えてもらったのでした。

人生の旅、「どこか着くだろう」「いつか着くだろう」

 さださんに付いていた頃、けっこうタフな移動がたびたびありました。当時の公共交通機関では間に合わないので、夜中に車で長距離を移動しなくてはいけないこともしばしば。

 いつでしたか、大阪を夜遅くに出て、岡山あたりから山越えして鳥取あたりに入ったことがありました。高速を降りた途端に、「オレ運転するわ!」と、運転席を奪取されます。明日の仕事を考えたら寝ていてほしい。それでも生来のオモシロガリは言っても聞きません。

 当時はナビなどない時代。地図を見て走ります。ただ、さださんはものすごくイメージ記憶の発達した方、けっこう自分の頭の中の「マイ地図」で走ったりします。

「まさしさん、次の信号、右です」私が助手席で地図を見ながら言います。

「おう。ただね、まっすぐって手もあるんだよ。ちょっと迂回するけど、景色がいいんだな」

「夜ですけど……」「ばかだねお前、景色がいいってことは道が面白いんだよ」

 行ってみたらば、超山道。崖沿いの道をくねくねと走ります。そりゃあ、昼間は景色も良かろうけれど、夜は怖さしかありません。