本部審査部から
突きつけられた無理難題

 翌日、早速本部審査部から電話が入る。

「あのさあ、3億はないよ。頭、どうかしてんじゃないか?否決で返すけど」

 想像通りの反応。そんなことは百も承知だ。

「どうすれば検討していただけますか?」

「キミ、まさかこの会社から追い込まれてんの?だって新規先だろ?やっぱりダメでした、でいいじゃないか」

「どうしても取引したいんです」

「俺の机の上、これから読まなきゃいけない稟議書が山積みなんだよ。こっちの身にもなれや。そんな暇ねーし」

 ガチャリと電話をたたき切られた。やりとりを気にしていた課長に一部始終を話す。

「支店長はああいう人だから仕方ない。内紛を気にしちゃうとか、もう事故みたいなもんさ。あんまり気にすんな。残念だが、次の案件を詰めていこうや」

 課長はすっかり諦めていた。その夕方、デスクのPCにメールが入る。審査部からの指示だ。

・棚卸資産と在庫車両の内訳を検証し、不良在庫の比率を確認。不良在庫はどのように処理しているかを確認する。

・25支店に及ぶ多店舗展開をしているので、各店舗別の採算資料を要求し、不採算店の再建方針と、新規出店計画を確認する。

 難題を突きつけ、諦めさせる魂胆が明らかだった。新規先にこのような資料提供は、まずお願いできない。間もなく支店長から呼び出された。

「指示メール、読んだか?なあ?ひどいなあ、あの審査担当、俺の大学の後輩なんだぜ。性格悪いにも程があるぜ。本店で見かけたらブッ飛ばしてやろうかな。どうだ?資料、頼めるか?」

「かなり難しいと思います」

「だよなー。目黒はよく頑張った。なあ?次の案件、考えようや」

 元をたどれば支店長のくだらないこだわりと、リスクからとことん逃げる性格が招いた話だ。

「ダメ元で依頼してみます」

「どうせ取引しないんだし、怒らせたら、適当に逃げてこいや」