非認知能力を高められるかどうかで、将来が違ってくる

 非認知能力の中核を成すのは自己コントロール力であるが、自己コントロール力についての研究の原点とみなすことができるのが、心理学者ミシェルたちの満足遅延課題を用いた実験である。

 それは、マシュマロ・テストとも呼ばれ、子どもにマシュマロを見せて、今すぐ食べるなら一個あげるが、研究者がいったん席を外して戻るまで待てたら二個あげると告げ、待つことができるか、それとも待てずに食べてしまうかを試すものである。

 これは、より大きな目標のために欲求充足を先延ばしできるかどうかをみるための実験と言える。

 ミシェルたちは、保育園児550人以上にマシュマロ・テストを実施し、その子たちが青年期、成人初期や中年期になったときにも追跡調査を行っている。

 その結果、幼児期により大きな満足のために欲求充足を延期することができた者は、10年後の青年期には、欲求不満に陥るような状況でも強い自制心を示し、誘惑に負けることが少なく、集中すべき場面では気が散らずに集中でき、ストレスにさらされても取り乱さずに建設的な行動をとりやすいことがわかった。

 さらに、20代後半になったときも、長期的目標を達成するのが得意で、危険な薬物には手を出さず、高学歴を手に入れ、肥満指数が低く、対人関係もうまくやっていくことができるというように、自己コントロールがきちんとできていることが確認された。

 その後の追跡調査をみると、40年後の中年期になっても、相変わらず高い自己コントロール力を維持していた。

『勉強ができる子は何が違うのか』書影『勉強ができる子は何が違うのか』(筑摩書房) 榎本博明 著

 このように、4~5歳の幼児期に欲求充足を先延ばしできるかどうかで、10年後や20年後、さらには40年後の自己コントロール力を予測することができ、それによって学業・仕事や人間関係を含め社会でうまくやっていけるかどうかを予測できることが示されたのである。

 その後も、就学前の自己コントロール力が高い者ほど、10年後に学業的にも社会的にも成功していることが示されたり、30年後に収入面でも健康面でも成功しており薬物依存や犯罪も少ないことが示されたりしている。

 幼児期に戻って自己コントロール力を鍛えるわけにもいかないし、今さら言われてもどうしようもないと思うかもしれない。しかし、幼児期に限らず、中学生を対象とした調査研究でも、自己コントロール力の向上がその後の学業成績の向上につながっていくことが確認されている。詳しくは次回で説明することにしたい。