プライドの塊...
公安になる人たちの特徴

 公安にも、CIAに負けず劣らずのユニークなキャリアの人はいました。例えば、元白バイ隊員で車両の国際ライセンスA級を持ってターゲットを追いかける者や農獣医学部の知見を捜査に活かす者まで、警察官になる人もさまざまな経歴を持っています。

 とりわけ本庁の公安は、全警察署から選抜されたメンバーが集まる場所なので、実績もプライドも高い。単調で辛い仕事ではあるのですが、自分から辞める人はあまりいません。プライドの塊みたいな人が多く、一匹狼タイプの人が多いです。同僚同士でもお互いをライバル視している人が多く、非常にピリピリした空気が流れています。逆にそうした集団を束ねる立場になると これは容易ではありません。 みんな自分が一番だと思っていますから。

 そんな公安になる方法は大体決まっています。警察学校を卒業して、そのまま公安になることは通常はありません。1年に1回ほど希望部署を組織に伝えるタイミングがあります。そこで、公安部を希望した人の中から適性を判断して公安部のほうから推挙します。そして、公安研修を受けるとようやく候補リストに名前が載ります。

 私の場合は、これとは違ってかなり特殊なルートで公安部に配属されました。警察学校にいる段階で公安部から接触がありました。教官から「警視庁本庁から来客があるから、同級生にバレないように抜けてきてくれ」と言われ、その通りにすると本庁から来たという人から「外事課に来ないか」と勧誘を受けました。希望通りの配属先で断る理由はありませんでした。どうやら、採用試験の結果がよかったことと、そして英語の資格をもっていたことが功を奏したようです。

 警察学校を修了して、しばらくすると「国際捜査官研修」に2年間ほど参加し、英語漬けの日々を過ごしました。国際捜査官研修とは表向きの名前で、実際は「ネゴシエーター研修」と呼ばれていました。テロリストなどと人質解放の交渉を英語で行えるようになるための訓練をする場所です。

 交渉というのは、語学力だけで太刀打ちできるものではありません。実際の交渉を記録した映像や資料をみながら、「相手の感情が変化する様子」や「取り調べの潮目の変化」などを感じとる訓練をしました。他にも電話の音声から相手の属性をプロファイリングするノウハウ、例えば使っている単語から相手の学歴や教養を推しはかったり、感情を読み解いたりする訓練もしていました。教養があって感情の高ぶりがなければ、論理的に交渉ができる相手とみなすことができるといった具合です。

 元FBIの捜査官が講師として来ることもありました。FBIには超能力捜査官とかいますよね。FBIは非科学的な捜査なども組織の仕組みとして取り組んで成果につなげているので、CIAに劣らないすごい組織です。