一方、投資される側である、スタートアップはどうでしょうか。

米国ではパンデミック初期、テック企業で働く従業員の起業が増加したと一時言われました。ですが、そのペースは急激な資金の増え方に比べるとかなり緩やかだったこともあり(特に2020年から2021年にかけては、ほぼ横ばい)、資金調達時の評価額は高騰しました。

この高騰は欧州でも起こりました。私は2021年の後半、欧州のテックカンファレンスに参加しました。欧州のスタートアップエコシステムは、さまざまな側面で“米国の数年遅れ”とされていたいましたが、そのノウハウや投資家との契約プラクティスなどが、かなり米国に追いついてきていると感じました。

ほんの10年前までは大企業の影響力が大きかった欧州ですが、起業はもはや“当たり前”になりました。フランスの大学生の7割が起業に関心を持っている、というデータもあります。欧州からは2021年、100社以上のユニコーンが誕生しています。

では日本はどうでしょうか。起業のハードルが高いこともあり、欧州ほどのスピードで米国に追いつくことはまだできていません。ですが大企業中心の経済や雇用形態が崩れ、起業を後押しする方向へ進んでいることは歴然で不可逆的です。2021年は、私の古巣であるディー・エヌ・エー(DeNA)から独立起業した人が、大幅に増えた年でした。手前味噌ですが、デライト・ベンチャーズがそれを積極支援していることもあるでしょう。さらに嬉しい驚きは、DeNAとは関わりのない、一部上場企業に勤務している人からのEIR(Entrepreneur In Residence:客員起業家)への募集も急増したことでした。

これら2021年に起こったことをまとめると、世界のVC投資額は爆発。スタートアップエコシステムが世界経済のメインストリームに。日本が追随することは必至で、既に大きい変化の兆しが見えてきた、というところでしょうか。

2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて

デライト・ベンチャーズとして2022年に期待することの1つは、日本のスタートアップエコシステムが世界標準化するための“キックスタート”がかかることです。

大企業の雇用形態が崩れ、起業がメインストリーム化するまでには、まだ数年かかるかもしれません。しかし、世界のVC業界が直面している変化や2021年の兆しを踏まえると、海外からのスタートアップ投資資金(VCへの投資、およびスタートアップへの直接投資)が日本のレイター・ミドルステージへ大流入する勢いは、この2022年に加速するでしょう。これまで日本では上場しなければ調達できなかったようなサイズの資金を未上場のまま調達できて、スタートアップがより大きな勝負に出られるようになるのです。