そして、アーリーステージへの投資にも、ミドル・レイターに投資する国内外の機関投資家からの要求や影響を受けて、さまざまな環境の変化が起こってくるでしょう。スタートアップの規模感やグローバル視点、ストックオプションのサイズや制約、投資家が提示する投資契約などの慣習、政府による各種業法規制など、各ステークホルダーの実務において、欧米に比べた競争力があるのかどうかという論点が意識されるようになるのではないかと思います。

一方で悲観的な見方をすると、投資に関連する金融指標のいくつかが、ドットコム時代に迫ったり、超えたりしています。2022年のVC投資環境を語る上でのelephant in the room(みんな頭では考えているが口にしない重要なこと)は、「IPO市場がいつ閉まるのか(市況がいつ崩れるのか)」ということではないでしょうか。

市況が崩れると、IPOが難しくなるだけでなく、M&Aもやりにくくなります。プロの投資家は流動性の低いスタートアップやVCへの投資を絞り、スタートアップにとっての資金調達が突然難しくなります。これは2008年の米国でも起こりました(編集部注:米国では、2008年9月にリーマンショックが起こった)。

私はマクロ経済の専門家ではないので、それがいつ起こるのか、そもそも起こるのか否かについて予想しようとするべきではありません。しかし、アーリーステージの投資家として、投資先のスタートアップの成功確率を最大化するために留意していることの1つは、市場の乱高下に振り回されない調達戦略をアドバイスすることです。

追い風市況の今は、資金調達にかける時間を短く済ませたり、じっくり事業に集中するための十分な資金を調達することができたりします。大きなチャンスである一方で、あまりに事業の実態からかけ離れた評価額で資金を調達することや、金に任せて固定出費を増やすことは、逆に次の調達ラウンドのリスクを高めることにつながり、そのスタートアップの首を絞めかねません。

スタートアップのステージがアーリーであればあるほど、売上などのKPIが不安定(上がることもあれば下がることもある)で、ピボットの可能性もあります。事業のフレキシビリティを維持して、変化する投資環境に対応するために、市場が活況な今だからこそ余裕を持ってできる、調達戦略の「守り」も肝要です。

国内ではやっと急成長の兆しが見えたVC投資が、2022年に調整・減速する可能性もあるといえばあるでしょう。それでも、起業の勢いが後退するようなことにならないことを真に願います。大企業も政府も我々投資家も、スタートアップエコシステムの成長は不可逆であることを意識して、長期的な視点で変革を続けるべきです。