他方、NPDグループが2022年1月20日に発表したホリデーシーズン(2021年11月21日〜12月25日)の調査結果では、北米でVR/ARハード+周辺機器の販売台数が前年度比180%増となった。
こうした状況を理解しておくと、SIEが発売日も価格も、まして外観すら発表できない状態のPS VR2の性能だけを発表したというマーケティング戦略の意図が見えてくる。SIEはQuest 2の一強状態に待ったをかけたいのだろう。
SIEが目論む「打倒Quest 2」戦略
しかし、いくらQuest 2の販売シェアが高いとは言え、VRゴーグルは販売台数を公表していない企業がほとんどだ。唯一、SIEだけがPS VRの累計出荷台数が500万台を超えたと報告しているが、それも2年前のCES 2020会場でのこと。
ここで、PS VR/2とQuest 2のスペックを比較し、ポイントをいくつか説明することにしよう。
![Quest2、PSVR、PSVR2](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/f/4/-/img_f4cbd2a583e4a4849a741353c507e5a4226178.jpg)
一番のポイントは、ディスプレイが液晶か有機ELかという違いにある。有機ELは液晶よりも高額だがバックライトを必要としないため、白と黒の表現力が優れている。液晶は真っ黒を表現しようとしてもバックライトに照らされて「黒に近いグレー」になってしまうのだ。
次は解像度。PS VRではQuest2に劣っていたが、PS VR2では(わずかだが)上回った。
もともと有機ELは液晶に比べて視野角が広いという特性があるため、頭を動かさずに目だけを上下左右に動かしても鮮明な映像が期待できる。それもあってか視野角は10度ほどPS VR2が広い。PS VR2の消費電力や重量が発表されていないために表の記載はないが、有機ELは液晶よりも消費電力が約30%低く、重量が軽いという強みもある。
それに加えてPS VR2専用の機能としてゴーグルが振動するほか、PS5で話題になった3Dオーディオ機能を備えたヘッドフォンも実装。手に持つコントローラーは専用品が用意され、繊細な振動コントロールやボタンを押し込む抵抗を可変させるといった、PS5の専用コントローラで採用された新機能はすべてPS VR2専用コントローラにも採用される予定だ。
まとめると、PS VR2はPS5が必須になるため高額にはなるものの、映像に加えて振動やオーディオを総合したことによる表現はQuest2を大きく上回るものになることは間違いない。
ただし、それだけのスペックを備えてはいても、シェア獲得はそれほど容易でないことはSIEも理解しているはずだ。ゲーム業界で話題になったPS VR専用ソフト『マーベルアイアンマンVR』ですら、パッケージ版の販売本数は約3000本強(メディアクリエイト調べ)。PS VRのソフトはダウンロード版の販売比率が高いと仮定しても、これではハードウェアを牽引するどころか、ソフトウェアの制作原価すらペイしない本数だ。この結果、今後発売されるPS VR専用ソフトのうち、発売日が明示されているソフトはゼロ。PS VR専用ソフトウェアがビジネス的に非常に厳しいことは明白だ。