創業から35年、パソコン周辺機器のメーカーのエレコムが新たに「白物家電」を開発した狙い

暮らしに溶け込み、毎日気軽に料理ができるものを

そこで挙げられた不満や課題を解決するためにたどり着いた製品が、「HOT DISH」だ。

焼く・煮る・蒸すなど基本的な調理が卓上でできて、ひとり分にちょうどいいサイズ感。食べ終わるまでずっと食べ頃の温度で楽しめて、洗い物が少ないから片付けもラク。さらに、調理家電は一度しまってしまうと出すのが面倒になるという問題を解決するため、汎用性の高いIHクッキングヒーターを採用し、出しっぱなしでも違和感のない食器のようなデザインを目指した。

いつでもすぐに使えて、「つくる」「食べる」「片づける」が手軽にできれば、もっと気軽に毎日の“おうちご飯”を楽しんでもらえるのではないか、と考えたのだ。

企画を進めていくなか、アイデアを具体的なデザインに落とし込んだところで最初の壁にぶち当たった。新たな領域への挑戦ゆえ、これまで当然のことながら社内には白物家電の開発を行った人はおらず、手探りの状態が続いた。

デザインチームのアイデアはあるが、その開発を実現できる人も組織もフローもない。既存の取り扱い製品はカテゴリーごとに細かく開発チームが分かれており、先の見えない新規企画に手を貸せる余力のある人員もいなかった。

HOT DISHのデザイン案
HOT DISHのデザイン案

品質管理を担う部門に協力を仰ぎ、ファブレスメーカーの強みを活かして外部で協力してもらえる工場を探し、何とか試作機を作り上げた。その後も社内へ働きかけながら、ほかの新規事業のアクションラーニング(現実の課題をケースとしてその解決に取り組むグループワークの一種)に参加するなどさらに企画を磨いていった。1人の開発担当者をつけてもらえるまで、着想から約2年が経過していた。

本格的に開発に着手し、次におとずれた壁はコンセプトやデザインと安全設計の実現だ。IHクッキングヒーターは一般的なホットプレートとは違い、内部に基盤が実装されたデジタル機器だが、提案した製品デザインは温度を直観的に操作できるアナログなレバー式のスイッチだった。デジタル機器をアナログな方法で操作できるようにするため、何度も試作を行った。

試作を重ねているときの様子
試作を重ねているときの様子

また「暮らしに溶け込む」というコンセプトにこだわり、できるだけお皿に見えるようにIH本体を極力小型にしたいと考えていた。そしてお皿のような見た目だからこそ、うっかり熱いプレートに触ってしまわないための配慮も必要だった。

これらを実現するために、何度も設計修正やデザインの見直しを行い、2次試作・3次試作と慎重に検証を重ねた。大変な作業ではあったが、この製品を使ってくれるユーザーにとってベストな使い心地のデザインになるように細部までとことんこだわった。