仕掛け人である、ソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平氏はYOASOBIのヒットについて「偶然の連続」と謙遜するが、アーティスト、プロデューサー、会社が1つひとつの出来事に対して必要以上に向き合った結果、人気が出ていったという。

YOASOBI、景井ひなの仕掛け人たちが語った「プロデュース論」、SNS時代のヒットをどう創るか?
 

「SNSでバズったのは本当に偶然です。当時、アニメ作品のMADムービー(既存の音声・ゲーム・画像・動画・アニメーションなどを個人が編集・合成し、再構成したもの)のBGMに『夜に駆ける』を使ってもらう機会が多く、それがTikTokでのバズに繋がっていきました。またTikTokで人気の曲がSpotifyのチャートの上位にランクインする、というヒットの仕方も今ほど浸透していなかった時期だったので、運が良かったと思います」

「そこから手をかえ品をかえ、より多くの人に知ってもらえるように発信の回数を増やしていきました。そういった取り組みを喜んでくれるファンの人たちに目を向け、『YOASOBIを一緒に盛り上げていく』という空気感を醸成できたのも大きかったと思います」(屋代氏)

同じアーティストという切り口では、FIREBUGは数々のヒット曲を世に送り出している国民的音楽ユニット・いきものがかりのトータルプロデュースを手がけている。FIREBUGの佐藤詳悟氏は「いきものがかりがヒットしていた時代(2010年代)はテレビ中心だったので、国民的人気が生まれやすかった」とした上で、YOASOBIのヒットについてこう語る。

「インターネットでいろんな仕掛けをつくりながら、国民的人気を目指されているんだな、というのを感じています。今はSNSが普及したことで、ファンが細分化してしまう時代。国民的人気を獲得できるチャンスが少ない中、大変なこともあると思うのですが、そうした苦労から逃げずにさまざまな取り組みを実践しているのがすごいと思います」(佐藤氏)

コンポーザーのAyase氏、ボーカルのikura氏の2人とも、もともと「人気者になりたい」「自分の発信するものを多くの人に聞いてもらいたい」という思いを持っていたからこそ、屋代氏は2人が活動する場を整え、可能性を増やすことだけに注力したという。

「デビュー前後で『どうなりたいか』『どう見られたいか』、逆に『どう見られたくないか』という話はたくさんしました。そのイメージを軸にしながら、音楽番組の出演の話など、さまざまなことに対する取捨選択をしていきました」(屋代氏)