もっとも、吉田氏たちがQastの提供を始めた2018年時点ではすでに社内の情報共有サービスや社内Wikiとして活用できるサービスが複数存在していた。どちらかと言えば後発のQastはどのように事業を拡大させていったのか。

その答えが「従業員規模が500人以上で、なおかつクラウドサービスに慣れていない非IT系の企業でも使いやすいサービスを作ること」だった。

「既存の社内WikiツールはIT業界を対象としたもの、その中でもエンジニア向けのものが多いように感じました。エンジニアはナレッジを残す習慣や社内外で情報を共有し、教え合う文化があるため(ナレッジマネジメントツールが)浸透しやすい。でも日本全体で見ればその文化がない業界が大半で、より大きな課題を抱えているのではないかと思ったんです。規模に関しても、数人の会社であればお互いのことをよく理解していて、属人化していても回っていくかもしれません。でも500人とか1000人規模になると、どこに情報があるのか、誰に聞いたらいいのかがわからないので課題が深いはずだと」(吉田氏)

当然サービスを使ってもらうまでの難易度はIT企業に比べて高くなるが、Qastではわかりやすいサービス設計を前提とした上で、ナレッジコンサルタントが組織作りや社内の文化作りまで伴走する“ハイタッチ”な体制を構築し、少しずつ成功事例を増やしていった。

ナレッジマネジメントを定着させるための一連のプロセスは「Qastサイクル」として体系化されており、これが強みにもなっている。

4.5億調達で事業拡大へ、2026年までに5万社への導入目指す

実は当初Qastをローンチした際は、主にIT業界向けにサービスを作っていた。ただその市場にはすでに複数の先行プレーヤーが存在し、それらを置き換えるほどの機能を有しているわけでもなく、最初の1年は苦戦したという。

anyにとって転機となったのは、試行錯誤を続ける中で可能性のある市場を発見できたこと。規模の大きい企業では社内ポータルやイントラネット、掲示板など何らかのツールをすでに活用しているケースが多いものの、本部からのアナウンスや情報共有などの用途に留まっており、現場間でのナレッジ共有の文化が根付いているところはほとんどなかった。

拠点や部門をまたいでナレッジを共有し、全体の生産性を上げていくためのツールを探しているという企業のニーズに「Qastの機能がバチっとハマった」(吉田氏)わけだ。現在は数百人から数千人規模でQastを活用する企業も増えてきており、同サービスのMRR(月次経常収益)の57%は従業員数500人以上の企業から生み出されている。