2つ目の大企業からのカーブアウトに関しては、ANRIに限らず今後の強化ポイントの1つとして打ち出すVCが複数出てきている。その背景として佐俣氏が挙げるのがVCファンドの大型化だ。

「ここ数年でVCの資金が増えてきていることが大きいです。以前であれば(VC調達よりも)大企業の中で事業に挑戦していた方が予算が確保できるという場合も多かったです。一方で大企業側も自社だけで強い事業を大量に作るのは難しい。VCファンドが大きくなったことで、特に看板案件以外については(社内でやるよりも)VCから調達した方が大きなチャレンジができるという事例が出てきています」(佐俣氏)

実際にANRIジェネラル・パートナーの鮫島昌弘氏によると、近年は一部上場企業をはじめとする大企業から月に1〜2件はカーブアウトに関連する相談がくるようになってきたという。ANRIとしては2020年に武田薬品からカーブアウトしたファイメクスに出資をしているが、今後同様のケースは増えていく可能性がある。

3つ目のエグゼクティブ層の起業家による大型調達は、ソフトバンクビジョンファンドの日本1号案件にもなったアキュリスファーマがその典型例だ。

同社は大手製薬企業・ノベルティスファーマの日本法人で社長を務めていた綱場一成氏が2021年1月に創業したスタートアップ。同年10月にビジョンファンドなどから68億円を集めたことで注目を集めた。

こうしたエグゼクティブ層の起業家が早い段階から大型の資金を集めて事業を加速させていく手法は「いわゆるベイエリアのわかりやすい起業スタイルの1つ」(佐俣氏)。この3つのトレンドは今後日本でも加速していくというのが佐俣氏の見解で、ANRIとしても5号ファンドを通じて投資を強化していく計画だ。

「自分たちはシードVCとして小さい金額のシード投資も初期からやり続けていますが、ファンドの規模が拡大する中で『シードから(それ以降のラウンドも含めて)多くの資金を出せる』ことが強みになってきました。結果的に上記のようなカテゴリを日本で創出することにも貢献できたと考えていますし、5号ファンドでさらに規模が広がればそのようなニーズにもっと応えられるようにもなります」(佐俣氏)

「ディープテック」へのシード投資に手応え

2016年から続けてきたシード期のディープテック企業への投資はANRIが力を入れてきた取り組みの1つであり、同社の特徴にもなっている。

鮫島氏の話では3号ファンドで投資をしたがん検査テックの「Craif」や量子コンピューター領域の「QunaSys」を始め、それ以降のステージで数億円から数十億円の資金に成功する起業も増えてきていることからも手応えを感じているという。