ただ、前者だけではまったく追い付かないのが現実です。となると、期待しているのがイノベーションです。課題はひとえに、どうイノベーションを生み出していくか。イノベーションを生み出すスタートアップに対して、いかに良い環境を提供できるのか。ここを強く後押ししていけるかに掛かっていると考えています。

2050年カーボンニュートラルは、日本発のスタートアップが導く──今、東京都がクリーンテックに投資する理由
リモートでの鼎談(ていだん)参加となった東京都産業労働局金融部の磯田篤岐氏

出馬:その通りですね。2050年カーボンニュートラルを目指すためには、世界全体で相当のことを推進しなければなりません。IEA(国際エネルギー機関)がまとめたレポートには、例えば2035年に内燃機関自動車の販売終了、2050年に世界で70%の電力を再生可能エネルギー化するなど、実現不可能にも思えるような項目を全て達成した上で、ようやくCO2(二酸化炭素)7.6Gt(ギガトン)を回収・吸収すると示されています。この状況においては、国や自治体による政策と、スタートアップによる技術双方のイノベーションが不可欠だと考えます。

村田:裏を返せば、これは大きなビジネスチャンスでもありますよね。日本では、CO2排出量の削減は「課されたもの」というネガティブなイメージですが、本質的には新産業が生まれる機会なんです。

脱炭素の流れで近年、最も大きな変化は2021年のGFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero)発足でしょう。世界の金融機関がネットゼロを目指すために組織した団体で、金融資産の合計は130兆ドル(約1京8000兆円)。これを機に、脱炭素に貢献しない企業には投資しないというルールが作られたと同時に、2050年に向けて130兆ドルもの莫大な資金があらゆる分野に投資されることが世界に示されました。

カーボンニュートラルを実現に導く期待のスタートアップとは

——そのビジネスチャンスをつかみにきているスタートアップとして、皆さんが注目されている企業はどんな企業でしょうか。

村田:われわれが今、投資しているスタートアップの中で期待しているのは、GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)可視化と排出量削減の領域です。

具体例を挙げると、前者は「アスエネ」や「ススティネリ」。アスエネは独自のGHG可視化システムが大手企業や地方銀行などに導入され急伸していますし、特定プロダクトに対するGHG可視化とカーボンオフセットの方法を提供するススティネリは、米国にも同領域でユニコーンクラスとなった企業が数社あります。クリーンテック(再生不可能な資源の利用を抑制し、従来製品に比べ廃棄物の発生を大幅に少なくする製品、サービス、プロセス)と呼ばれるこのマーケットの第一歩といった意味では、GHGの見える化は市場として分かりやすく、新たなホリゾンタルSaaSとなっていくのではないかと捉えています。