スタートアップエコシステムも、日本では大企業がけん引してきたと言ってよい。

スタートアップへの投資を行うVCの約半分は、事業会社が運営するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である。これ自体は日本も米国もあまり変わらない。ただ日本の場合、残りの半分を占める独立系VCも、その「独立系」という言葉とは裏腹に出資者(LP)のほとんどは大企業だ。機関投資家から資金のほとんどを得る米国のVCとは対照的だ。

日本の大企業は必ずしも、広い金融投資ポートフォリオにおける、ハイリスク・ハイリターンのアセットクラスとして、VCを見ているわけではない。情報収集や提携先の選定、買収のためのディールフローなどを目的にVCを通じて投資を行うケースも多い。その場合、財務パフォーマンスはむしろ副産物で、元本割れは望ましくないが、増えて戻ってくればハッピー、という見方になる。

新規上場時の時価総額の中央値は、米国で1000億円を越え、欧州各国でも数百億円である一方、日本では80億円程度にとどまる。なのでVCからすると、米国のように1000億円、1兆円のイグジットを狙わなくても、100億円で上場するスタートアップが何社かあり、全体で10年間に1.5〜2倍(日本企業の売上高から換算した平均成長率と同程度)のリターンを出した上で、投資家である大企業にとって有益な情報を提供できていれば、その次のファンドでも同じ会社から投資を継続してもらえるチャンスが充分に見込める。

日本のアーリーステージのスタートアップのプレゼンテーションでは、その多くに「X年後に上場する」と宣言するページが差し込まれている。上場することが、大きなゴールとなっている。投資契約書にも上場を促す条項や、上場しないと起業家に罰を与える条項が設けられていることも多い。これらはいずれも、米国スタートアップのピッチや投資契約では見ることがない。

さらに日本の場合、スタートアップは「生存率」が高い。事業がたち行かなくなったスタートアップがすぐに人材獲得を目的に投資原価やそれ以下の金額で買収(アクハイヤー)されたり清算されたりする米国とは状況が異なる。日本では、CVCやLPである事業会社から「どうにか生存させよう」との意向が働くこともあり、「大きくリスクを取って、ほとんどが死ぬが一部が生き残り大成功」という分布モデルよりも、「ほとんどはなんとか生き残り、その中でも一部が成功」という分布モデルになる。結果、失敗した投資を挽回するのに必要な成功のサイズも小さくなる。