まとめると、日本のスタートアップ投資は米国に比べて、倒産したりアクハイヤーされたりせずに生き残るためリスクが小さく、上場の規模が小さいためリターンも小さい。VCに投資するLPである大企業も、情報収集などを目的に投資することも多いので、米国のVCへの投資家に比べて、高いリスクに応じた高い期待リターンを求めない。投資環境、投資家・起業家の思惑や法制度、投資習慣など全体として、VCというアセットクラスがもたらすレベルの改革を起こせる状況になっていない。

視点4:目先のイグジットより、大きなイノベーションを起こそう

上述のとおり、日本のスタートアップが成功した時に実現するビジネスのサイズは小さすぎる。これを大きくするためには、多くのスタートアップにとってゴールになっている上場についての見方を変えることから始めるべきだ。

VCはその性質上、スタートアップの上場後は金銭的には役割が終わってしまう。一方、スタートアップの経営者は、上場で「イグジット」、すなわち出口になるわけではない。スタートアップのビジネスにとって正念場であるタイミングで上場するにも関わらず、その後いなくなってしまう株主(VC)の都合で上場することが目的化してしまっているのは、本末転倒だ。

米国と日本の上場会社・未上場会社を比較して興味深いのは、日本の上場会社は米国ほど株主の利害を優先する株主至上資本主義に振れていない一方、未上場会社では、米国よりも株主至上資本主義のきらいがある点だ。長期的なイノベーションを達成するにあたって、上場することはゴールではなく、あくまで手段であり、ツールである。そしてこのツールにはメリットとデメリットがある。

メリットは、会社のプロファイルが上がることや、さまざまなかたちで資金調達ができることだ。だが、デメリットも大変に大きい。業績評価のタイムスパンが四半期ごとになり、短期的な利益追求や株主還元を重視せざるを得ないということだ。しかも上場手続きに加えて決算報告など、IRのために管理部門で大変な手間とコストがかかるし、そのための体制も整える必要がある。ほとんどの場合、CEOであるファウンダーも、そこへ多くの時間を使わなければならなくなる。

事業の成長や海外展開にとって、上場会社であることが足を引っ張ることがあるということはDeNAの例でも述べた。

日本のスタートアップは、アーリーステージで上場やイグジットのことを考えるのをやめてはどうだろうか。世の中を変えるイノベーションで長期的に成長を目指せる事業のあり方が第一優先で、上場や買収はそれを達成するための手段に過ぎない。VCにとってのイグジットは、あくまでイノベーションの副産物だ。