もちろんVCにはファンドの運用期間があって、ある時点で投資家にキャッシュを償還しなければならないのは確かだ。だが未上場のスタートアップが上場せずに成長を続けることで、初めて未上場株式を取引するセカンダリーマーケットが発展するのであって、その逆ではない。セカンダリーマーケットがないことを言い訳に、投資先のスタートアップに上場を急がせるのは本質的ではないと考える。

また、日本のスタートアップのうち半数程度には、世界市場を最初から狙ったプロダクトづくりを目指してもらいたい。上場してから海外進出、という戦略はすでに述べたように筋が悪い。これまでは海外へ飛び出さなくても何とか事業の成長をまかなえた日本の「なまじ大きい国内市場」も、2060年には人口が9000万人を割り込み、その4割は高齢者になる見込みだ。

日本企業が再び世界で活躍するために、エコシステムのあるべき姿とは

ここまでの話を踏まえ、起業家や投資家は、どのように振る舞うべきだろうか。

起業家は、世の中を変革する(できれば世界規模の)大きなイノベーションを目指すなら、VCが本当にそのイノベーションに共感しているのか、はたまた100億円の上場を求めているのかを見極めるべきだ。イグジットのことはレイターステージになるまで心配しなくてよい。また債務などの個人保証は、何があっても避けるべきだ。

VCとしては、リスクはあれどもユニコーン、デカコーンを目指せるスタートアップに集中投資したい。鳴かず飛ばずのスタートアップを延命させるためのフォローオン投資はしない。ほんの一握りの大ホームランのための打席が大事で、残りは三振でも仕方ないというスタンスのVCが日本にも増えることを願う。

政府は、2021年あたりからスタートアップ政策に力を入れて来ている。欧州各国はもちろん、米国も政府の役割なしには、スタートアップエコシステムが盛り上がらなかった。政府にはまず、米国や欧州(特にフランス)政府が繰り出してきたスタートアップ政策を徹底的に分析してほしい。日本特有の各種業界規制(特にフィンテック)はぜひ解体すべきだが、規制緩和だけではない。力関係の偏った投資家と起業家の関係を修正するために、スタートアップ起業家の連帯保証の廃止など、介入すべき機会も多くある。

国内のVCにLP出資する大企業は、より大きな収益を期待してほしい。VCは、情報量ではなく、金銭的リターンで評価するべきだ。なぜなら、成績のよいVCにこそ、重要なディールフローや市場に対する洞察が集中するからだ。