「(SaaSスタートアップへの投資における)去年のテーマは完全にバーンマルチプルだと思います。大量のマーケティングコストを投下してでもいかに多くのリードや顧客を獲得できるかが重要視されていたところから、成長率だけでなく成長の質が見られるようになった。言わば『大排気量型』から『燃費重視型』の経営への転換が求められているんです」(岩澤氏)

成長SaaSのカギを握る「マルチプロダクト化」

特定の領域や産業に特化したバーティカルSaaSにおいても、建設領域の課題解決に取り組むアンドパッドを筆頭に大型の資金調達を実施するスタートアップが増えてきた。

「(小売業界の)10Xや(貿易領域の)Shippioなど業界を代表する大手企業のDXを支援するようなスタートアップや、テイラー、Finatextのように基幹システムを代替するような事業者が出てきている」(早船氏)点も近年の変化と言える。

バーティカルSaaSスタートアップ 評価額上位10社
バーティカルSaaSスタートアップ 評価額上位10社

今後のSaaS企業の成長を占う上でも1つのキーワードとなりそうなのが、「マルチプロダクト化」だ。

筆者が資金調達時のSaaS企業経営者に取材をしていても「マルチプロダクト化やオールインワンプロダクトを目指していく」という話を聞く機会が増えてきた。目指しているビジョンや事業規模を達成するためには「単一プロダクトでは難しい」という声を聞くこともある。

「上場SaaS企業のファンダメンタルを見ても、二極化が加速しています。ARRが100億円規模まで成長しているSaaSの特徴は何か。1つの要因になっているのが『プロダクトの多様性』です。上場をしてからマルチプロダクト化をすることは簡単ではないと各社が気付き始めていて、数年前と比べても、より早いタイミングで複数のプロダクトを仕込むことが求められてきています」(岩澤氏)

SaaS領域では、1つのデータを基軸に複数のプロダクトを展開する「コンパウンドスタートアップ」という概念も広がり始めている。シリーズAの段階で、法人支出管理に関連する複数のプロダクトを展開するLayerXはその代表例だ。

この潮流はとても興味深いものだと言えるだろう。一昔前であれば、リソースが限られるスタートアップこそ「選択と集中」が重要であり、早くから複数の事業に挑戦することが必ずしも良しとはされていなかった。リソースが分散され、投資効率が良くないと考えられていたからだ。

岩澤氏も「実際にユーザベースの場合もNewsPicks立上げの際『リソースを分散させず、まずはSPEEDAに注力した方がいい』と周囲から言われた」という。