両社によると「連結対象となるようなものではなく、あくまでもマイノリティ投資」とはいうものの、インフォマートからタノムへ単独で数億円規模の出資を実施するとともに、プロダクト開発や拡販に向けた取り組みを始めている。

一見“競合関係”にも思える彼らが覇権を取り合うのではなく、協業の道を選んだ背景にはどのような考えがあったのか。また実際にタッグを組んでから約半年でどのような変化が生まれ始めているのか。

タノム代表取締役の川野秀哉氏、インフォマート代表取締役社長の長尾收氏、同社コーポレート・デベロップメント執行役員の濱嶋克行氏に話を聞いた。

ミールキットからの撤退、食品卸の受発注に感じた可能性

タノムはもともとミールキットサービス「Chefy」を手がけるシェフィとしてスタートした会社だ。2017年5月にローンチした同サービスは初速こそ良かったものの、その勢いは長くは続かなかった。

日本のミールキット市場はあっという間に複数の大手企業が参入するレッドオーシャンと化し、スタートアップの体力では太刀打ちするのが困難な状況に。川野氏たちも撤退を余儀なくされた。

タノムはもともとミールキット事業からスタートした
タノムはもともとミールキット事業からスタートした

現在手掛けるTANOMUはそのミールキットからピボットする形で始めた事業だが、再スタートとなる領域を「食品卸の受発注」に決めたのはChefy時代の経験が大きく影響している。

「食材を仕入れる立場として卸売業者と取引をしていると、いろいろともどかしいことがありました。注文したものが届かない、FAXがどうしても流れない、データ発注したいけど先方が対応できない、いつも取引している問屋さんが自分たちの欲しい食材を持っているのかすらわからない...。毎週発注をしていて『もしかしたらこの業界はデジタル化がめちゃくちゃ遅れているのではないか』と感じるようになったんです」(川野氏)

当時この領域ではすでにインフォマートが圧倒的な存在感を放っており、川野氏が付き合いのあった約10社の卸売業者にヒアリングをしてみても全社が導入しているような状態だった。

ただ卸売業者に何度もヒアリングをしたり、川野氏自ら1〜2カ月間にわたって現場に張り付いて業務を観察したりしてみた結果わかったのは「卸売業者の業務効率化にはあまり繋がっておらず、デジタル化の恩恵を十分には享受していない」ことだったという。

タノム代表取締役の川野秀哉氏
タノム代表取締役の川野秀哉氏

業界の構図として、だいたいの卸売業者は200〜300社の取引先を抱えており、顧客が多い事業者であればその数は数千社規模にもなる。大手チェーン店など一部の取引先との受発注についてはインフォマートなどが手がけるシステムによってすでにIT化されているが、それ以外の個人店とのやりとりについては今でもアナログな手段が基本だ。