中には、自らの知名度を上げることに躍起になり、本業(経営)が疎かになってしまう人もいる。黄氏はテレビなどのメディアに出ることについて、こう持論を展開する。

「テレビ番組などに出演し、知名度が上がるのはあくまでボーナスタイム。その知名度をもとにD2Cブランドをやろう、という考えは全くなくて。そのボーナスタイムを生かせる組織づくりをしていくのが、事業家には必要かなと思っています。知名度が高まっているタイミングを有効活用し、プロダクトづくりやプロモーションを行う。そういう意味では、知名度を上げることで、ベンチャーにとって最もお金がかかるプロモーション・PRの部分をある程度費用を抑えながら実施できる。それはありがたいなと思います」(黄氏)

売り上げ20億円の裏側、個人で「バズり続ける」には限界がある

一方、菅本氏は独立時の状況が黄氏とは異なる。2012年6月まで元HKT48のメンバーとして活動していたこともあり、もともと一定の知名度はあった。

HKT48を脱退した後は数年の充電期間を経て、“モテクリエイター”と称してモテるメイクやファッション情報などをSNSで発信し、若い女性のファンを獲得していった。

2016年8月にKOSを設立。同社では登録者84万人のYouTubeチャンネル「ゆうこすモテちゃんねる」の運営や企業とのタイアップ案件、スキンケアのD2Cブランド「YOAN(ユアン)」などの運営を行っている。また、2019年12月にはライバー(ライブ配信者)マネジメント事業を手がける子会社「321」を設立。現在、約2400人のライバーが登録している。

なぜ、菅本氏は“個”で生きるのではなく、会社を立ち上げることにしたのか。

「“個の時代”とは言いつつも、インフルエンサーとして生きていくのは大変なんです。常にバズることを求められ、何かしらの方法で注目を集め続けなければいけない。それは大変なので、インフルエンスできているうちに、さまざまな事業を始めよう、と。2年後に“ゆうこす”がタレントとして飽きられても大丈夫なように、サービスや人を育てていこうと思い、個人ではなくチームで戦うことにしたんです」(菅本氏)

KOS代表取締役の“ゆうこす”こと菅本裕子氏
KOS代表取締役の“ゆうこす”こと菅本裕子氏

現在、KOSは50人ほどの組織になっており、売上はYouTubeのタイアップ案件やD2Cブランドの運営で10億円、ライバーマネジメント事業で10億円。合計20億円の売り上げを記録するほどの規模にまで成長を遂げている。

「会社を立ち上げたときは、私のファンだった人たちも入ってくれていたので、ずっと“ゆうこす”でいなければいけなかった。会社に行くときはメイクをかわいくしたり、評価面談では『みんな頑張ってくれてありがとう!』しか言えなかったり。なかなか菅本裕子になれないジレンマみたいなものはありました。ただ、今は1周まわって人事担当者なども入ってくれて、私は最後にビシッと出ていくだけの存在になれました」(菅本氏)