──VCはスタートアップより先に、多様な人材が流れ込む傾向があったということですか。

はい。僕がグロービス・キャピタル・パートナーズへ入社した2008年当時から、コンサルや商社などの出身者もいました。その後さらに大手テック企業や起業家出身者も入社しました。VC業界全体で見ても、プロフェッショナル・ファームや大手企業からキャピタリストになった人も増え、また新卒からVCでのインターンを経て独立するパターンもあります。多様な人がVCにやってきています。

ベンチャーキャピタリストが「簡単に辞められない」理由

──最近のトレンドだと、VCからスタートアップのCXOになるパターンも増えていますよね。CXOは、VCとしてのスキルを大きく転用できるポジションと言えそうですか。

うーん。実は「投資家から事業家」って、それほど連続性はないんですよね。もちろん一部転用可能なスキルもありますし、またしても転身してから学べばいいという話ではありますが。

例えば、VCからスタートアップのCFOになった場合、コーポレートファイナンスの知識は役に立ちます。しかし、事業会社に合ったチームマネジメントや、経理、総務、労務といった管理のオペレーションについては必ずしも精通しているわけではありません。もちろん、細かい実務はメンバーにやってもらうということはありますが。

VC投資はだいたい5〜7年ほどの長期的な時間軸で、事業を俯瞰(ふかん)するような立ち位置にいます。ですがスタートアップは日々のオペレーションから3年ほどの中期の視点が強かったりするので、時間軸の視点も若干異なります。

──VC事業からはあまり簡単に転職・退職できる印象がありません。契約もありますし、前編では「人と人とのウェットな関係も大事」という話もありました。転職・退職などでVCの担当者が変わることで、起業家が困惑するということも聞きます。

おっしゃるとおりです。パートナークラスになると外部投資家(LP:Limited Partner。ファンドに投資する外部の投資家)に対して「10年コミットするのでお金を出してください」とお願いをし、同時に投資契約にもキーマン条項(事業を継続する上で重要な人物が退職することによる利益の喪失を防ぐための契約条項)が入るので、簡単に辞めるわけにはいきません。

場合によってはGPは借入をして自らファンドに出資をしているケースもあります。また、成功報酬も途中で辞めるとなくなるので、経済的な縛りも大きいです。逆に、辞めるタイミングがあるとしたら、担当の投資先がおおむねイグジットするなど、ひと段落ついたときや、ファンドそのものが終わったときですね。