でも、偉い人に反感を持つのではなく、話し方や立ち居振る舞いを変える努力をしたそうです。髭を生やし、ジーンズをパンツ(とはいえチノパンだったようですが)に変え、少しでも年かさに見えるように心がけた。
最近の鈴木さんは、甚兵衛や作務衣をまとっています。それがまた、似合っている。大物感というか、映画界の重鎮というか、独特のオーラを鈴木さんにもたらしています。
また、鈴木さんのテーブルには常にサイコロが常備されていて、打ち合わせ中に「最後はサイコロで決めるんです」と言って場を沸かせます。
重要なのは、鈴木さんがこうしたアイテムを使い、周囲から自分が、「どう見られるかを意識している」という点です。
鈴木さんが重要な決断を下すとき、サイコロを使っているのを、少なくともぼくは見たことがありません。サイコロという小道具ひとつで、ひょうひょうとした空気を演出しているのだと思います(本当に、サイコロで決めているときがあるのかもしれませんが)。
篠原征子さんという、名アニメーターがいました。東映動画時代に監督の宮崎駿さんと出会い、『アルプスの少女ハイジ』全話の動画検査をつとめ、『未来少年コナン』『赤毛のアン』『ルパン三世 カリオストロの城』そして『風の谷のナウシカ』から『ハウルの動く城』まで、宮崎作品の現場を支えてきた人です。
アニメーターを引退したあとも、スタッフを叱咤激励してくれる、ぼくら若手のジブリスタッフにとって、お母さんのような存在でした。
ある日、篠原さんに呼び止められ、こう言われました。
「きれいな格好していなきゃダメよ。汚い格好しているとね、そういう仕事しかまわってこない。ちゃんとした格好していれば、それなりの仕事がまわってくるものよ」
アニメーション業界には、大事な商談にもジーンズとTシャツでのぞむ人がめずらしくありません。けれど、クリエイターならまだしも、プロデューサーがそれでは、決まる仕事も決まらない。