総予測2024#92Photo:Pool/gettyimages

異例の3期目に突入し、盤石な政治体制を構築したかに思える中国の習近平国家主席。しかし、それとは裏腹に習近平路線にはいくつかの問題点があり、不安定な要素もあると指摘するのが、元駐中国大使の宮本雄二氏だ。特集『総予測2024』の本稿では、習近平氏が抱える不安要素について解説してもらった。(宮本アジア研究所代表 宮本雄二)

「週刊ダイヤモンド」2023年12月23日・30日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

要の官僚機構が疲弊し経済も停滞
3期目の習政権に試練

 中国の変化は速い。2022年10月、中国共産党第20回党大会が終了した時点において、経済運営に不安はあったが、習近平体制そのものは盤石に見えた。単に第3期政権を実現しただけではない。「習近平路線」を実施に移すため必要な全てを得たように見えたからだ。

 中国共産党の統治のやり方は、まず指導思想の確立が必要であり、続いてそれを実施する体制の整備が不可欠となる。

 指導思想は「習近平思想(習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想)」だ。「習近平思想」と呼ばれるものは、習近平国家主席が重要な場で行ってきた「重要講話」を項目ごとに整理したものだ。どういう考え方で何をどうするかが書いてある。毛沢東思想も鄧小平(とう・しょうへい)理論も同じように作られている。17年の第19回党大会にてそのバージョン1が、今回はそのバージョン2が党規約に書き込まれ、全党員の順守を義務付けている。

 実施体制については、習近平政権第1期において、厳しい腐敗の取り締まりによって政敵を排除し、末端の悪徳ボスどもを退治して政権基盤を確立した。第2期は、第1期に始めた機構改革と並んで規則を整備し、反腐敗だけではなく紀律違反も厳しく取り締まることができるようにした。彼らの言う「党建設」であり、それを通じて党中央の意向が末端まで届き、指示通りに動く制度を作り上げた。

 にらみを利かすために、党と政府の「実力部隊」、すなわち人民解放軍、公安部、国家安全部、それに司法、検察等を全て押さえた。そして今回の党大会で見せた人事の力である。政治局以上の人事は、全て習近平に忠誠を誓う人たちで固めた。

 これが習近平の示した力であり、ここまで持ってきた習近平の政治力は素直に評価すべきだ。現在の中国政界において習近平は圧倒的な政治力を持っていることを見せつけた。

 ところが、である。その第20回党大会直後から、習近平の統治にほころびが見え始めるのである。

次ページでは、習近平氏の統治体制にほころびが見え始めたというきっかけについて解説する。また、3期目に突入し政治体制は盤石にみえる習近平氏だが、著者は習近平路線についてまだ不安要素があると指摘する。その内容も併せて解説する。