総予測2024#95Photo:Global Images Ukraine/gettyimages

2023年6月から始まったウクライナによるロシアへの反転攻勢だが、その成果は芳しくなく戦争が終息する気配は一向に見えない。欧州では“支援疲れ”も目立つ中、欧州政治に詳しい広瀬佳一防衛大学校教授は、停戦に向けた「プランB」を模索する動きが始まる可能性を指摘する。特集『総予測2024』の本稿では、ロシア・ウクライナ戦争と欧州の動向について解説してもらった。(防衛大学校教授 広瀬佳一)

「週刊ダイヤモンド」2023年12月23日・30日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

露ウ戦争は停戦模索の段階に移行
欧州に広がる“支援疲れ”

 欧州は冷戦後に、法の支配、民主主義や人権といった価値の共有に基づく国際協調によって安定した地域を築いてきた。そうした欧州の努力を根底から覆したのがロシア・ウクライナ戦争であった。

 戦争2年目となった2023年、その行方が最も注目されたのは、6月からのウクライナ軍による反転攻勢であった。欧米の戦車、戦闘装甲車やミサイルを供与された反撃は、大きな成果が期待されたが、進捗状況は思わしくなかった。

 反転攻勢が失敗したことを驚くほどの率直さで認めたのが、ウクライナ軍総司令官ザルジニー将軍であった(英「エコノミスト」誌23年11月1日付インタビュー)。ザルジニー将軍は、反転攻勢から5カ月で進軍したのは距離にして17キロメートルだと明らかにした。奪還した領土は、ロシア占領地全体の0.3%程度にすぎなかった。

 その上で、ザルジニー将軍は戦線が第1次世界大戦同様、陣地戦となって膠着しており、陣地戦のまま長期化すると、ロシアはウクライナの3倍の人口と10倍の経済規模を抱えることから、ウクライナにとって戦争継続は難しくなると吐露していた。

 総司令官としての率直な発言には、欧米にさらなる武器支援を求める意図があるのは間違いない。実際にザルジニー将軍は、ウクライナ軍が無人機、電子戦能力、地雷除去能力などで新しいテクノロジーを導入することにより、陣地戦を機動戦に転換させる必要性を訴えていた。しかし、総司令官が反転攻勢を失敗と認め、戦争の見通しが不透明になったことは、今後の欧米の武器支援に少なからぬ影響を与えるように思われる。

反転攻勢によりプーチン体制を追い込み停戦を模索するというシナリオは、もはやふさがれつつある。次ページでは、欧州に広がる“支援疲れ”の実態と、停戦に向けた“プランB”の正体について解説する。