総予測2024#97Photo by Kazumoto Ohno

新型コロナウイルスの蔓延により私たちの働き方は大きく変わったが、コロナ禍が明けて見直されるのか。特集『総予測2024』の本稿では、普及した在宅ワークの見直しや生成AIの登場による雇用不安など、これからの働き方について、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の著者、リンダ・グラットン氏を直撃した。(国際ジャーナリスト 大野和基)

JPモルガンが「週5日出社」を
要求する納得の理由とは?

――コロナ禍で在宅ワークが浸透しました。どの程度のハイブリッドワークがベストでしょうか。

 日本では特にそうでしたが、パンデミックの前は、生産的な仕事をするには出社しないといけないというのが一般的な考えでした。

 パンデミックが始まってから、人々は在宅ワークでも生産的に働けることに気付きました。それで、世界中の企業が異なる働き方の実験を始めました。その結果三つの働き方が定着しつつあります。

 米Airbnbのように、まったく出社する必要はない、特にプログラマーは在宅でいいという会社もあれば、米JPモルガンのように、週5日出社が基本という企業もあります。X(エックス、旧Twitter)のイーロン・マスク氏も週5日出社命令を出しています。そして、その中間の、週3日出社くらいがちょうどいいと言っているハイブリッド型企業があります。

 その三つのタイプの企業で、どれが正しいとかどれが間違っているというのはありません。在宅ワークができるかどうかは、二つの要素で決まります。一つは仕事の種類です。出社して同僚と協力する必要がある仕事かどうか。もう一つは、CEO(最高経営責任者)が何を求めているかです。

 JPモルガンのような投資会社が出社を要求する理由の一つは、彼らの仕事が協力で成り立っているからです。信頼できる同僚たちに意見を求めたり、あるテーマについてブレインストーミングを行ったり、人物の紹介を依頼し合ったりしています。米ハーバード・ビジネス・スクールのボリス・グロイスバーグ氏の研究では、投資銀行のアナリストたちが転職すると、多くの場合成績が低下することが分かっていますが、こうした人的ネットワークを失うことで成績と生産性が低下するのです。

リンダ・グラットン/英ロンドン・ビジネス・スクール教授Lynda Gratton/英ロンドン・ビジネス・スクール教授。1955年、英国生まれ。英リバプール大学で心理学の博士号を取得。人材論、組織論の世界的権威で、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 100年時代の人生戦略』(アンドリュー・スコット氏との共著)など著書多数。 Photo by K.O.

 オフィスでの仕事は人と人とが近い距離で関わり合い、そして偶然の出会いが起きて、イノベーションを実現させる機会が生まれる価値のあるものです。

 私が設立した会社HSMアドバイザリーには、リサーチャーのグループがあります。彼らは基本的に出社する必要がありません。仕事のやりとりはオンラインで十分ですが、時折、他の社員と交流するために会社に来ています。

 マスク氏が週5日の出社を要求するのは、自分が欲することにすこぶる強い考えを持っているだけですが、CEOの意向は社員の働き方に強い影響を与えます。

次ページでは、これからのマネジャー(中間管理職)やリーダーに求められる新たな資質、生成AIの登場によって雇用不安が高まる中、どのような仕事を選ぶべきか、グラットン氏に直撃した。