「ダイバーシティコミュニケーション」とは何か?
個人に対しては、キャリアカウンセリングを通して支援を行っている垂水さん。一人ひとりが抱える悩みに対しても、「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方がポイントになるようだ。
垂水 人間関係の難しさや息苦しさ、仕事の問題を抱えている人が多いです。相手が自分のことを「分かってくれるはず」と思い込んでしまっているから、分かってもらえないことに苦しくなったり、仕事がうまくいかなくなったりしてしまう。その問題を解決するための方法として、私は「コミュニケーションスキルをつける」ことを提案しています。まずは、「人は多様である」と気づくこと。管理職や上司にも、それぞれの考え方・感じ方があると分かった上で、自分の考えていること・感じていることを伝えていくようにすると良いでしょう。相手の側に立ってみることはとても大切です。「自分の『当たり前』を少し疑ってかかる」――その姿勢が「ダイバーシティ&インクルージョン」の入り口です。
同質性の高い職場だったら、空気を読めば、ある程度はうまくいくのですが、会社の多くの組織は、ジェネレーションも幅広く、それぞれが目指しているものも異なってきています。ですから、自分を適切に表現し、他者とのコミュニケーションを変えていく必要があるのです。
ダイバーシティ&インクルージョンの見地に立ったコミュニケーションは、組織にポジティブな影響をもたらす。垂水さんは、「ダイバーシティコミュニケーション」という名称の研修を行っているが、「ダイバーシティコミュニケーション」とは、いったいどのようなものなのか。
垂水 一言で定義するなら、「一人ひとりが持っている能力を最大限に生かし、全員が活躍して組織を成長させるためのコミュニケーション」です。これは、一時的にではなく、中・長期的に行(おこな)っていくことが大切です。一人ひとりが多様で、バラエティ豊かなこと――これは「人的資本経営」にも通じます。
「ダイバーシティコミュニケーション研修」を依頼される企業は、「従業員が疲れている」「人間関係や時間の管理に悩んでいる」という課題を抱えています。先ほどお話ししたように、疲れている理由はダイバーシティにまつわることも多いのです。解決策のひとつが、先ほど言いましたように、「コミュニケーションを変える」こと。いろいろな人と良いコミュニケーションがとれるようになれば、タイムマネジメントもできるようになり、人間関係の悩みも軽減されます。「アンコンシャスバイアス」を知ることも大切ですね。誰にでもバイアスがあることに気づいていれば、人間関係がうまくいかないときに立ち止まることができますから。そのほか、「ロジカルに伝えること」も、ダイバーシティコミュニケーションにおいては大切です。言っていることに論理性がないから相手をイラつかせてしまい、ハラスメントの引き金を引いてしまうのです。私は、ハラスメント防止の研修講師もしているのですが、その研修で受講生から聞くハラスメントの内容の多くがダイバーシティの裏返しです。ダイバーシティコミュニケーションを知ることは、ハラスメント防止のポジティブアプローチにもなります。