日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、ベンチャー・キャピタル「アニマルスピリッツ」を立ち上げた元ミクシィCEOの朝倉祐介氏の対談が実現。「日本経済が復活するために足りないものとは?」「日本でスタートアップを盛り上げるにはどうすればいいか」「CFOに求められる資質とは」といったテーマについて、7回にわたってお届けする。(撮影/梅沢香織、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)
CFOは「気候変動」についても知らなければならない
――日本ではまだまだなじみが薄いCFOという役職ですが、欧米では次期CEOとみなされるほど重要な役職でもあるとのこと。そのCFOに求められる資質について、お話を伺えたらなと思っております。
徳成旨亮(以下、徳成) 変化に対応できる、というのは真っ先に挙げられる資質ですよね。今やCFOが企業価値を高めるためにカバーしなければならないことは、財務に関することだけではなくなっている。
たとえばTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース=各企業の気候変動への取り組みを具体的に開示することを奨励する国際的な組織)の枠組みに基づいた気候変動に関するビジネス上の機会(チャンス)とリスクを、財務諸表などが記載されCFOがその内容に責任を持つ有価証券報告書に記載することが2022年度から推奨されています。
これは、数年前までは考えられなかったことですね。当時のCSRレポート、現在のサステナビリティレポートや統合報告書といった任意開示の書類ではなく、法定書類である有価証券報告書に、たとえば地球の温度が2度上がったら企業経営においてどういうチャンスとピンチがあるか、書かなければならない。それもかなり細かく、具体的に。
たとえば製粉会社さんだとすると、ある地域では温暖化で将来的に小麦があまり獲れなくなるけど、別の地域では逆にもっと穫れるようになるだろう。そうすると輸入コストはどうなるか?とか。
また海運会社さんだと、北極海の氷が溶けると、日本から北極海経由でヨーロッパに行けるようになるから、輸送コストが下がって経営上はチャンスになってくる、とか。悪いことばかりではないというようなこともリスクと同様に有価証券に書くのです。
私がCFOを務めているニコンでは、タイにあるデジタルカメラの主力工場がチャオプラヤ川の氾濫で水害被害を受けるリスクを定量化して、有価証券報告書に書いています。
さらに今年の3月期の有価証券報告書からは、TCFDに準拠した気候変動に関する開示に加えて、人的資本経営についても開示が求められるようになりました。男性の育休取得率、男女の賃金格差、女性の管理職比率は最低でも開示しなければいけなくなったんです。
朝倉祐介(以下、朝倉) そうすると、CFOに求められる知識というのは非常に多岐にわたりますね。
徳成 そうなんです。有価証券報告書の最終責任者は通常、経理・財務担当役員ですから、CFOと名乗っていない経理専門だった役員でも、急にサステナビリティとか人事制度とかにも関心を持たなければいけなくなってきた、ということなんです。有価証券報告書って法定書類ですから、誤ったことを記載すると法律違反、それこそお縄になるんです。
そういう意味でも、CFOは変化に強くないとやれない。僕は経理のことしかわからないんだよね、それ以外は興味ないしやりたくないんだよね、と言っていては務まらないのです。むしろ、それをおもしろいと思えなければ、CFOの資質はないということになるかもしれません。
アニマルスピリッツ代表パートナー、シニフィアン株式会社共同代表。
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て現職。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。