日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする。(撮影/疋田千里、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)
いいかげんなのに成功者が多い
アメリカの起業家たち
――徳成さんは著書『CFO思考』の中で、重要なテーマとして「アニマルスピリッツ」について触れています。「アニマルスピリッツ」とは、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが生み出した用語で、「経済活動に見られる主観的で非合理的な動機や行動のこと」で、今の日本にまさに足りていないものだと著書の中で指摘しています。改めてなぜか伺っても良いでしょうか。
徳成旨亮(以下、徳成) たしかに著書では、CFOにはアニマルスピリッツが大事だと書きました。でも実はCFOだけではなくて、私はビジネスパーソンすべてにアニマルスピリッツが必要だと思うんですね。著書名は『CFO思考』ですが、本当に言いたかったことは、「すべての組織人よ、アニマルスピリッツを持とう!」ということなんですよ。
僕は日経平均株価を構成する225社のうちの2社、ニコンと三菱UFJファイナンシャル・グループ(三菱UFJ)のCFOをやらせていただいている間、海外投資家からずっと、「日本人もしくは日本企業、日本経済にアニマルスピリッツはないのか」と言われてきました。
実を言うと僕は、堀内さんと違って本を読まない人間ですから、そこで初めて「アニマルスピリッツとは何だろう?」と思って、一生懸命調べたわけです。で、経済学者のケインズが言っていた言葉なのか、と知ったのがもう十何年前。
僕が政治経済の授業で習ったケインズって、もっと近代経済の基本的なことを説いている印象があったものだから、まさかアニマルスピリッツなんて言っているとは、と驚いて。経済というのは数理的な仮定に基づくものではなくて南極探検と大差ない、とまで書いてある。そんなことを言う人なの?とまったく認識していなかったんです。
そこで改めていろいろ考えてみると腑に落ちるものがあった。たしかに日本人は真面目で勉強も大好きだから、何事も論理的に考えたり、何とかリスクを減らそうと考えることも得意です。でもアメリカのビジネスパーソンや起業家を見ていると、いい加減な人がいっぱいいるけど、そういう人が大成功したりするんですよ。
そのあたりを考えると、日本人はもうちょっと思い切ってやったほうがいいんじゃない?と。そういう思いも込めてこの本は、全ての日本の経済人、とくに若い人めがけて書いた1冊なんです。
あとは、おじさんたちにも向けて。僕たち経営者に近い立場の人たちは、自分の会社がどこまでリスクを取れるか、ということは本当はわかっているんですよ。とくにCFOは会社の財務をしっかり見ていますからね。
だからわかっているんだけど、「無事これ名馬」思想で、あと何年で退職だからとか、このままいけば子会社の社長になれるからとか考えて、なるべくリスクを取らずやっている。そういう経営者、とくに財務経理担当役員が多いのが現実なんですよね。
堀内勉(以下、堀内) そこが欧米との一番の違いと言えますよね。
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長、一般社団法人100年企業戦略研究所所長、一般社団法人アジアソサエティ・ジャパンセンター理事兼アート委員会共同委員長、ボルテックス取締役会長他。
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、東京大学Executive Management Program(東大EMP)修了。日本興業銀行(現みずほFG)、ゴールドマン・サックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)、アクアイグニス取締役会長等を歴任。資本主義の研究をライフワークにしており、多くの学者・ビジネスパーソンと「資本主義研究会」を主催している。著書に『人生を変える読書』(学研)、『読書大全』(日経BP)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)などがある。