日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする。(撮影/疋田千里、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)

スタートアップ経験者が日本の大企業に戻ってこないと、日本は厳しい

「会社のパーパス」を決める前に
考えるべきこと

堀内勉(以下、堀内) 今、若い人たちはすごく変わってきていると思います。ワーク・ライフ・バランスという言葉があるじゃないですか。仕事と個人の生活のバランスをどう取るか、ということが問われているのですが、これからはもっと進んで、仕事と個人の生活の区別そのものがなくなっていくのではないか、と。

 とは言っても、昭和時代のように、仕事にすべての時間を絡み取られてプライベートがない、という意味での「区別がない」ではないです。自分のパーパスというのがまずあって、そのパーパスに沿う形で社会と関わる。そしてその社会とのかかわりの中で、何らかの形で生活の糧が得られる。

 それは別の言葉で言えば「仕事」になりますが、おそらくそのような世の中になっていくのではないかと思っています。

 今はみんな会社のパーパスというような話をするのですが、でもそんなのは優等生っぽくて嘘くさい。あなたは本気でそんなこと思っていないだろう、と思うわけですよ。

 それよりも、自分のパーパスは何だか言ってみろ、と私は言うんですね。それで言葉に詰まると、自分のパーパスもないくせに何が会社のパーパスだ、と言ってみんなシラけてしまうんですけど。

 だから若い人には、まず自分のパーパスを考えてみてもらいたい。それでそのパーパスにこの会社が合うのかどうか、そこをしっかり考えてみたらどうですか? と提案したいのです。

徳成旨亮(以下、徳成) 自分のパーパスがわかれば、なぜこの会社とは合わないのかわかりますし、そうすればどうやったら合うのかも探れるようになる。

堀内 それでどうしても合わないなら、辞めればいいんですよ。今は会社を辞めたって、レールから外れるわけではないし。私が会社を辞めた1998年頃は、コイツ完全に頭がおかしくなったってみんな言いましたけど。

徳成 堀内さんは日本興業銀行の総合企画部にいらっしゃいましたからね。エリート中のエリートですから、それを辞めるなんて当時は考えられない。

堀内 その点、今は会社を辞めることのハードルが下がっているじゃないですか。だから辞めてもいいから、まずは自分のパーパスをきちんと考えてみましょう、と。嫌々会社のパーパスを復唱したって、自分の心の中に入ってくるわけもないのですから。

 ワーク・ライフ・バランスと言うとき、会社と自分の生活が別々にあって、その割合をどうしたいか? ということが問われていると思うんですね。5対5にするのか、6対4にするのか、あるいは3対7にするのか。

 でもこれからはそうではなくて、自分の生き方に沿うように世の中と関わったらどうですか? と。それが、おそらくこれからの働き方になるんじゃないかなと思っているんです。だから自分のパーパスがわかっていることが、必要最低条件になってくる。

スタートアップ経験者が日本の大企業に戻ってこないと、日本は厳しい堀内勉(ほりうち・つとむ)
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長、一般社団法人100年企業戦略研究所所長、一般社団法人アジアソサエティ・ジャパンセンター理事兼アート委員会共同委員長、ボルテックス取締役会長他。
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、東京大学Executive Management Program(東大EMP)修了。日本興業銀行(現みずほFG)、ゴールドマン・サックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)、アクアイグニス取締役会長等を歴任。資本主義の研究をライフワークにしており、多くの学者・ビジネスパーソンと「資本主義研究会」を主催している。著書に『人生を変える読書』(学研)、『読書大全』(日経BP)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)などがある。