シニア社員の情熱が
若手社員への刺激に
その後、2018年に山地氏がサウンドファンのCEOに就任したのを機に、これまでのBtoBビジネスから個人向けのBtoCへと大胆な方針転換を図ることになった。
「私が経営に参画する少し前にテレビ番組『ガイアの夜明け』で、ミライスピーカーが取り上げられました。その際、視聴者の方から『家庭用のスピーカーも作ってほしい』というご要望が1000件以上も寄せられたんです。また、高齢者はテレビから発する言葉が聞き取りにくいため、音量を上げすぎてしまい、家族や近所とトラブルになっている、という問題もありました。私はこれらのことから、ミライスピーカーは個人消費者との相性が良いのでは、と仮説を立てたのです」
それから程なくして、同社はスピーカーの小型軽量化・省コスト化にも成功し、2020年には家庭用の「ミライスピーカー・ホーム」をネット上で発売。販売開始直後から大きな反響を呼び、2023年10月現在、累計販売台数は20万台を突破している。ユーザーからは「テレビの音量で家族ともめなくなった」「補聴器がなくても聞こえる」といった声が届いているという(※「聞こえ」には個人差あり)。
「KENWOOD出身のエンジニアで取締役CTOの田中宏が、スピーカーの小型化を実現してくれたからこそ、BtoCに方針を転換できました。彼は現在65歳で、一般的には定年を迎えている年齢ですが、現在も開発部の中心メンバーとして活躍しています」
田中氏のほかにも70代のメンバーが携わっており、ミライスピーカーの開発にはシニア社員の存在が欠かせないという。そして山地氏は「シニア社員と働くメリットは、彼らの知識の活用だけではない」と語る。
「若手社員が、ベテランエンジニアたちの“ものづくりに対する情熱やこだわり”から刺激を受けられるのも大きなメリットです。たとえば、当社の技術フェローを務めた坂本良雄(故人)は、スピーカーに関する特許を300件以上も取得している、スゴ腕のエンジニアでした。スピーカーを知り尽くした彼にとっても『曲面サウンド』は未知の技術でした。彼が『曲面サウンドがおもしろくて仕方がない』と楽しそうに話す様子から、若手社員も多くのことを学んでいました」
現代の若手社員は、日本のものづくり産業に活気があった頃の技術者と交流を持ちにくい。その点、ひとつのプロダクトの開発から販売まで幅広い世代が関わっている同社では、若手社員がシニア世代の情熱に触れる機会に恵まれているという。
「私がサウンドファンに入社した理由は、技術のユニークさと社員の志の高さにあります。曲面サウンドという唯一無二のユニークな技術を持ち、社員たちには、それを使って『世の中を良くしたい』という共通の想いがあります。このカルチャーは、今後も残していきたいですね。私自身、さまざまな新規事業の立ち上げに携わってきましたが、ミライスピーカーのようにユニークさと社会貢献を両立するビジネスは珍しく、やりがいを感じています」