通勤環境を悪化させた
JR東日本の根底にある「首都圏観」

 この中で興味深いのは「武蔵野線と比較してもコロナ後の戻りが悪くなっている」「利用が多く列車運行本数が多い市川塩浜以西における列車ごとの混雑の偏り」、つまり武蔵野線が乗り入れる市川塩浜以西の輸送改善が主目的と述べていることだ。

 京葉線、武蔵野線、内房線、外房線の関係を示したのが上図だ。東京駅を起点に10キロ圏までが都内、10~20キロ圏が市川塩浜以西及び武蔵野線沿線だ。そして30キロ圏以遠は、通勤快速の廃止で打撃を受ける房総エリアだ。

 JR東日本は2008年に武蔵野線・京葉線・南武線など東京都心を取り囲む環状線を「東京メガループ」と名付け、利便性向上を積極的に進めてきた。過去10年のダイヤ改正を見ると、京葉線の増発の多くが武蔵野線からの直通列車だ。

 前掲の定期乗車人員を比較した表で示したように、京葉線の八丁堀~市川塩浜間は2012年度から2018年度にかけて多くの駅で乗車人員が10%以上、越中島と潮見は30%以上も増加した。市川塩浜以東も一定の割合で増加しているが、以西は元々の利用者が多い分、乗客数のインパクトが大きい。加えて武蔵野線も増加率が高いため、自然と武蔵野線直通列車が増発された。

 快速・通勤快速を存置しながら各駅停車を増発しても混雑緩和は可能だが、ラッシュ時間帯の増発はしない(むしろ減便する)のが前提だ。

 そうなると快速等通過駅の停車本数を維持ないし増加するには、これまで通過していた快速と通勤快速を各駅停車にするしかない。利用が多い快速はともかく、利用が少ない通勤快速まで廃止されるのは、このような背景があるのだろう。またこの前提に立てば、ラッシュピーク前の(通勤快速より停車駅が多い)快速であれば復活しても影響が小さいと判断した理由も見えてくる。

 こうして利用者の心情に思いが至らぬ新ダイヤが完成した。運行本数と快速のどちらも減るのでは、利用者の「取り分」はあまりに小さい。

 このすれ違いの根底にあるのは「首都圏観」の違いにあるのではないだろうか。東京駅を起点に東京23区がおおむね15キロ圏、武蔵野線が20キロ圏、千葉・柏・大宮・立川・横浜などのターミナル駅が30キロ圏で、国道16号線もこの近傍に通っている。そして首都圏の都市形態、人口動態は30キロ圏を境に大きく変わるとされている。

 このうち、今も住宅化が進むのは23区周辺部から20キロ圏が中心で、20~30キロ圏は当面は人口を維持するが、遠からず人口減少が始まる。そして30キロ圏以遠は既に人口減少が本格化しており、特に房総半島は顕著である。

 つまりJR東日本としては今後、東京メガループを一つの境界線として、その内側を「都市」、外側を「郊外」、そして30キロ圏以遠は「ローカル」との位置づけを強めていくのだろう。外房線、内房線の通勤環境を著しく悪化させる通勤快速の廃止の根底には、このような意識があるように思えるのである。

 確かにそのような傾向があることは否定できないが、自治体や利用者など個々の思いを無視して進めれば鉄道離れと人口流出が進み、路線はさらに衰退する負のスパイラルに陥りかねない。一方で単にダイヤを元に戻し、運行形態を維持し続けるのが正解とも言えない。地域と手を携えて鉄道を軸にしたまちづくりを進めなければ利用は先細りだ。

 今回の騒動で明らかになった「すれ違い」は大きな禍根を残したが、土壇場の「反省」は歩み寄りの可能性を示した。まずは京葉線のあり方について地域と建設的な話し合いを開始すること、そして今後も他路線で進むだろう「合理化」の大きな教訓になることを願いたい。