ウクライナ紛争が長引いている
残念な理由

「長いスパン」で優位にあるNATOはこれまで、多様な兵器・弾薬類をウクライナに送り、戦力アップに寄与してきた。だがそれは、ロシアに大打撃を与え、ウクライナの領土を回復させ、戦争を終わらせるほど強力な支援ではなかった(第301回)。

 NATOの強大な軍事力に鑑みると、この状況は少々不可解である。うがった見方をすれば、特に米英は戦争を延々と継続させ、ロシアをじわじわと弱体化させる目的で、中途半端にウクライナを支援してきたように思える(第325回)。

 戦争が長引けば、資金面や国際世論の面においても、ロシアの立場はさらに厳しくなる。ロシア産の石油・天然ガスの禁輸や供給減が続けば、米英のエネルギー大手が欧州の市場を取り戻す好機となる。だからこそ、米英をはじめとするNATOが、ウクライナへの武器供与を「小出し」にしてきた可能性は否定できない。

 しかし、そうした思惑があったにせよ、長期的に支援を続けてきたウクライナが、ロシアに占領された領土を「取り返せていない」ことは、NATOにとって誤算だったのかもしれない。

 昨今は停戦や紛争終結の時期が取り沙汰されているが、この膠着状態が今後も変わらないまま停戦に至った場合は、ロシアによる「ウクライナ侵略」という目的が果たされたことになる。紛争の開始直後に問題視された「力による現状変更」が結果的に成し遂げられてしまう。

 この場合、形式上は「停戦」という形を取っていても、ロシアが「勝利宣言」をする懸念が付きまとう。過去にロシアがジョージアなどに侵攻し、領土を一部占領した際も、ウラジーミル・プーチン大統領は「大国ロシア」の復活を強くアピールした。今回も同じことをする懸念があるのだ。

 また、ロシアが「勝利宣言」をすると、国際社会における「権威主義」の国々が勢いづく恐れもある。例えば近年は、ロシア・中国・ブラジル・インド・南アフリカの5カ国で構成されるBRICSと呼ばれる連合体が勢力を拡大している。5カ国だけで世界人口の40%を占め、世界経済に占めるシェアは26%に上る。

  G7(主要先進国)など、自由民主主義陣営の先進国が主導してきた国際社会で、このBRICSは不気味な存在感を放っている。