ウクライナへ“NATOの3大戦車”投入も、欧米の「武器の小出し」に透ける思惑Photo:WPA Pool/gettyimages

米国・英国・ドイツが“NATOの3大戦車”と称される兵器をウクライナに供与することが決まった。だが、一部報道によると、ウクライナの正規軍は壊滅状態にあり、他国からの義勇兵によって人員不足を賄っているという。敗色濃厚な状況下で強力な武器を提供しても、戦争をいたずらに長引かせるだけではないか。特に米英をはじめとするNATO諸国は、戦争を延々と継続させる目的で、武器供与を「小出し」にして中途半端な支援を続けているように思える。そういえる理由を詳しく説明する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

“3大戦車”の供与が決まるも
ウクライナは瀕死状態

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから1年がたった。しかし、停戦の兆しはまったく見えない。

 ロシアは「特別軍事作戦を継続している」と表明し、攻勢を強めている。一方、ウクライナもロシアに徹底抗戦する意向をあらためて示し、戦闘機などさらなる兵器の供与を欧米諸国に呼びかけている。

 欧米諸国は、対戦車ミサイル「ジャベリン」、ドローン「バイラクタルTB2」、地対空ミサイル「スティンガー」など、さまざまな兵器・弾薬類をウクライナに送り、支援を続けてきた(本連載第301回)。

 直近では、米国の「M1エイブラムス」、英国の「チャレンジャー2」、ドイツの「レオパルト2」といった戦車がウクライナに供与されることが決まり、注目を集めている。

 これらの性能は極めて高く、北大西洋条約機構(NATO)の“3大戦車”とも称される。ロシア軍は現在、ウクライナに多数の戦車を投入しているが、3大戦車はこれらに対抗する上で大きな威力を発揮することが期待されている。

 だが、戦車の投入だけでは、戦局を抜本的に変えるのは難しいだろう。

 ウクライナの反撃によって、この紛争はさらなる膠着(こうちゃく)状態に陥るとみられる。同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領が目的とする「領土回復と人々の解放」の実現に向けては、厳しい状況が続きそうだ。

 というのも、現時点でウクライナの正規軍は壊滅状態にあるとみられる。この紛争の開戦時、ウクライナの正規軍は約15万人、予備役は約90万人だったという。しかし先日、「23年1月初めの時点で総計55.7万人が死傷していた」という記事が出た。これが事実であれば、総兵力の5割強が失われたことになる(『JBpress』の報道より)。

 この記事によると、ウクライナは今、NATO諸国などから志願して集まってきた「義勇兵」や「個人契約の兵隊」によって人員不足を賄っており、その規模は約10万人だという。要するに、外国の武器を使って、外国の兵士が戦っているのがウクライナ陣営の現実のようだ。

 欧米諸国がしていることは、瀕死の重傷患者に大量の輸血をしているのと同じではないか。患者本人の血が失われかけている肉体に、他人の血を送り込んで延命しているようなものだ。