ほとんど成立しないことは分かっているのに
親たちはなぜ公園に通い続けるのか

 それでも親たちが公園に通い続ける理由は何なのだろうか。公園で出会ったある一人の母親が、「誰かに話を聞いてほしかった」と言わんばかりに詳しく話をしてくれた。

 彼女は54歳。公園に通うようになって3年経つ。一人娘は30歳になったところだ。「だんだん難しくなってきている感じです。上海では、独身の女性のほうが男性よりも多い。女性はどうしても自分より社会的な地位や収入が高い男性を求めるから」と彼女は嘆く。

「娘は私がここに来ていることは知っているけど、まったく無関心です。我々親がいくら焦っても意味がないですよね。もうそろそろやめようかなと思っています。最近、逆に娘に説教されることが多くなりました。結婚するメリットとデメリットを比較されてね。(略)以前は、子どもが結婚しなかったら、肩身の狭い思いをしたけれど、今はみんな結婚しないから。私のような親がすごく増えているので、だんだん子どもが結婚しない現実を受け入れられるようになった」と少しホッとしたような表情を見せた。

 上述の許教授は、「調査した親の約半数は、子が結婚しないことを受け入れている。特に女親は男親よりも寛容度が高い」と指摘している。

一方、同じ人民公園で、
高齢者同士がお見合いをしている

 一方、人民公園の他の一角では、高齢者同士が見合いする光景が見られた。代理見合いのエリアに負けず劣らず賑やかだ。これは近年、中国各地で見られる光景である。

 経済発展とともに都市開発が進み、昔のコミュニティが崩壊した。急速に高齢化が進む中で一人暮らしの高齢者が増え、“孤独”も大きな問題になっている中で生まれた現象といえる。真剣に伴侶を探しているというよりは、同じ状況の高齢者が集まることで、心の安らぎや孤独の解消に役立っているのだろう。

 近年の中国は、経済成長が著しく、最先端の技術を誇り、人々は豊かになった。しかし今回、人民公園の一角で見たものは、“お金が第一”な社会風潮、昔と変わらぬ人々の意識、地域間の格差・差別など、急成長した社会のさまざまなひずみであり、なんとも複雑な気持ちとなった。少子化、高齢化、世代間の価値観ギャップ――上海の公園には、現代中国の多くの社会問題がギュッと凝縮されている。