『キングダム』の45巻では、未来の始皇帝である秦の大王・政が、秦を含む「戦国七雄」の七カ国のうち、最も遠くにある「斉」の王と会談するのはまさに「遠交近攻」策です。結果的に、この「遠い国との提携」が成立し、58~59巻のギョウ攻略編で絶体絶命のピンチを斉に救われることになります。

 戦略的思考の要諦は、「メタ認知」にあります。

 状況を俯瞰することで、「目の前の敵と戦うだけではでなく、高度な次元で勝っている状況を作る」ことを目指すのです。

「現場の戦争では勝ち目はなくても、あらかじめ同盟による挟み撃ちで勝てる状況を作っておく」とも言えますね。

 そうした歴史と紐づいた戦略を史実に忠実に、しかもわかりやすく学べるのが漫画の強みなのです。その意味でやはり、『キングダム』はビジネスパーソンの必読書と言えます。

 戦略とは、戦を略す、と書きます。

 つまりその本質は、戦わずして勝つこと。戦う前から、勝ちが決まっている状況を作ること。これこそが戦略的思考の要諦です。

 俯瞰的に考えて、「上のレイヤーで勝っている状況を作ること」を、常にビジネスのあらゆる場面で念頭に置いて考えるようにしてください。

 これを以下のような図にすると、リーダーが上位階層で勝負しているということです。リーダーの役割を言い換えると、現場では見えない、上のレイヤーでの施策を考え検討し、実行し続けること、と言えそうです。

 現場レベルで頑張るだけなら、リーダーとは言えないわけです。

図表:戦わずして勝つのイメージ同書より 拡大画像表示

ビジネスリーダーは
将を使える人物になれ

 ビジネスリーダーは、「コンフォートゾーンを脱して、積極的に新しい相手のところに飛び込んでいく」姿勢が重要になります。

「遠交近攻」の要諦とは要するに、勝つためには「距離の遠い、一般的にはハードルの高い相手と組め」ということ。

図表:リーダーの役割同書より 拡大画像表示

 私の経営するキャラアート株式会社(現:株式会社ファンダム!)は、設立から数年後の売り上げが数億円しかない時に、年商約30億円の会社を買収して、飛躍的成長を遂げることができましたが、これも「遠交近攻」にのっとった戦略でした。

 普通の若手経営者が行かないような、東京大田区の蒲田で開かれた、70代の経営者たちが集まる会に参加し、そこである老舗企業の創業オーナーの方にM&Aを直談判したのです。

 自分の知らない、アウェーの会合に飛び込んでいく行動こそ、普段は接することのない相手との「遠交近攻」の実践だったわけです。