ビジネスパーソンには本質的な「戦略的視点」、つまり高度なメタ認知能力と多角的視点が必要だ。多くの経営者の心を打つ漫画『キングダム』にはビジネスのさまざまな場面で参考になる内容が描かれているという。本稿は、保手濱彰人『武器としての漫画思考』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。
孫子の兵法の深淵を覗く
華麗なる実践図書『キングダム』
先日40歳を迎えた私より下の世代になると、「オタク」への偏見も薄れ、多くの人が漫画を趣味だと公言して憚りません。
そうした時代背景もあり、20~30代の経営者の知人に、好きな漫画は何かと聞くとすぐに答えが返ってきますし、雑談の場で「これが自分のバイブルです!」と漫画を紹介される機会も増えたように感じます。
ここ10年では、『キングダム』を挙げる人が激増しました。
ご多分に漏れず、私も『キングダム』は、どハマりした漫画の一つです。
高みを目指して奮闘し、最終的に中華を統一する、というサクセスストーリーは、志の高い多くの経営者の心を打ちます。
しかし私はここで、「ビジネスリーダーが多角的視点を得られる有用書」として、『キングダム』を挙げます。「孫子の兵法」のケーススタディとして、さまざまな場面で参考になる内容が描かれているからです。
しかしながら、ビジネスの戦略論として語られる孫子の兵法は現在、深みのある本質的な部分が相当に省略されてしまっています。かなり浅くしか理解されておらず、本質にまで言及されていません。
戦略論を一般大衆に広く普及させるには、耳障りの良い正論であるほうが効率的なため、浅く切り取られてしまうという残念な側面も確かにあります。耳が痛い正論は受け入れにくいため、それらを説く「帝王学」がいわば密教のように、一部の人たちのみに伝えられているのはそういった理由からです。
古代中国の兵法の奥深さと、その有用性・汎用性を理解するには、原典をしっかりと読み込むことと、それに関連した事例、つまり中国史をつぶさに見ていくことが肝要なのです。そのために『キングダム』が役立つのです。
「メタ認知」が戦略の鍵
戦わずして勝つことが「仕事」
中国の古代史や王朝の歴史を深堀りしていくと、現在の企業経営や人事にも通じる事例が見られます。
たとえば、中国南北朝時代の兵法書『兵法三十六計』に「遠交近攻」という策があります。
かんたんに言うと、「遠くの国と組め」です。そうすれば、近くにはない特別な資源を得やすいことに加えて、近くの国を挟み撃ちできるからです。