日本企業に入り込む
中国の産業スパイ
日本には、中国のスパイとその協力者が数万人規模でいると言われています。中国のスパイは現場には姿を現すことはなく、膨大な数の協力者たちをリクルートし、組織化して活動させる指揮官のような存在です。また、中国の情報機関は、留学生を利用する特徴があります。卒業後にそのまま企業に就職する人も多いので、企業の中に送り込むにはうってつけです。学生のうちから協力させることもあれば、就職してからリクルートすることもあるようです。
実際に、2020年10月には積水化学工業の元社員がスマホの液晶画面に使われる技術を中国企業に不正に漏洩した罪に問われました。中国企業は、SNS「リンクトイン」で元社員に接触していたそうです。しかも、その元社員は解雇された後に、別の中国企業に転職していたと言います。また、2020年1月にはソフトバンクの機密情報を不正に取得した元社員が、報酬の見返りにロシア元外交官にその情報を渡していたことが発覚。有罪判決を受けています。
しかし、このように表に出てきて事件化されたケースは氷山の一角に過ぎません。盗まれたことにすら気がつかないケースもありますが、産業スパイ被害にあった企業が被害を公にしたがらないことが一番の要因です。産業スパイに機密情報を盗まれたことが知れれば、株価に影響したり、取引先からの信頼を失ったりするリスクがありますから。
こうした現状を打開すべく、最近では警察庁も経済安全保障の専従班を設置して、アウトリーチ活動に力を入れ始めています。これは外事警察が民間企業に出向いて、産業スパイの手口を紹介するものです。かつては、公安が民間にスパイの手口を教えることはありえませんでした。スパイ側に情報が漏れると対策を打たれる可能性があったからです。しかし、被害件数が増えてきたことや岸田政権が経済安全保障担当大臣のポストを設置して以降、潮目が大きく変化しています。私のような外事警察出身者がスパイに関する認知や対策を広める活動をしていることを、警察も歓迎してくれるよになりました。
日本は常に他国のスパイから狙われており、今、話題になっているセキュリティ・クリアランス制度をはじめ、スパイ活動を防止するための法案整備が急がれます。