くっついたり離れたりする「機動力」こそが仕事の能力になる
山口 現在は「労働=仕事」と考えることが普通です。でも、これからは「仕事」「労働」「コミュニティ」「個人」といった概念は、すべて分かれてくると思っています。たとえば、仕事は仕事として自分が価値貢献できるのは何かということを考え、コミュニティはコミュニティとして大事にし、自分の世界は自分の世界としてほかのこととは切り離して大切にする。4つの世界を分けて考える人が多くなってくると思いますね。
坂之上 そうなんですか?
山口 サラリーマンは減っていくでしょうね。独立事業者(インディペンデント・コントラクター)はますます増えてゆく。1960年代の『三丁目の夕日』の時代は自営業者のほうが多く、サラリーマンになりたいと考える人が多かった。でも、今はサラリーマンのほうが多く、サラリーマンの先行きは暗いですよね。いずれグローバル大企業に勤めるか、独立するしかない時代が来ると思うんです。
独立するとインディペンデント・コントラクターとしてプロジェクトベースで離合集散を繰り返すわけですが、そのときには、「パートナーシップ・マネジメント」がすごく難しくなるのではないかと考えています。僕もお金や契約の問題、価値観が合わない人と組んでしまうなど、いろいろな失敗を繰り返してきました。そういう場合の捉え方や距離の取り方が非常に大事になってくる気がします。これからは、人々はニューロンのようにつながったり離れたりを繰り返す世界になります。永続的なパートナーシップを前提とする社会制度が崩壊したときを想定して、自分の働き方を設計しなければならなくなるでしょう。
強いつながりができることもあれば、なくなることもある。距離ができることもあれば、詰まることもある。関係が切れることもあれば、再びつながることもある。個人がこうした経験を数多くこなしていかなければならなくなるので、それに対するリテラシーを、今から身につけるべきだという気がしています。
坂之上 すごくよくわかります。
私は大企業の社員だったことも、ベンチャー企業の社員だったこともありますし、今は個人のフリーランスとして働いています。その経験を踏まえて思うのは、「形にとらわれちゃいけない」ってことです。
個人だから個人とし生きていく能力を身につけなければならない、というわけではなくて。大企業に所属していても、プロジェクトごとに会社と会社、組織と組織がくっついたり離れたりするのが日常でしょう?個人がどういう働き方をしていてもいいんです。山口さんがおっしゃった通り、くっついたり離れたりするときの「機動力」を発揮する能力こそが、仕事の肝だと思います。