今回の巨額投資の前提には、これまで立て続けに表明してきた外部とのアライアンスや投資計画がある。
3月には、日産との電動化・知能化に向けた戦略的パートナーシップの検討を発表したほか、4月にはカナダでのEV・電池工場新設などを公表した。さらに、5月には、米IBMとソフトウエアの技術開発に関する覚書締結を発表し、EVの半導体の高性能化やソフトウエアの開発期間を短くする共同研究を進めるなど、SDVの早期実用化を目指している。
電動化・知能化といった新たなモビリティの領域で世界的な競合に打ち勝つためには、アライアンスやパートナーシップの拡大などが欠かせない。21年4月の社長就任から4年目を迎えた三部社長は、“自前主義”が中心だった旧来のホンダトップの方針からの決別を加速している。その決意の強さと生き残りへの危機感は、「2030年といっても、あと5年しかないので」と、今回の会見で漏らした三部社長の発言からもうかがえる。
加えて、今回の発表の背景には、ホンダが稼ぐ力を身に付けてきたことで、巨額投資に耐え得る財務体質に変化してきたことがある。
ホンダが5月に発表した24年3月期連結決算では、営業利益が前期比77%増の1兆3819億円と、16年ぶりの最高益となった。もちろん円安による為替差益も追い風になったが、ようやく四輪事業の収益基盤が確立されてきたことも大きい。
従来、ホンダの収益力は高収益率の二輪事業が支えており、四輪事業は赤字スレスレで「二輪におんぶに抱っこ」とまで見られていた。だが、24年3月期は二輪事業の営業利益が5562億円に対し、四輪事業は5606億円。営業利益率は二輪事業の17.3%には及ばないものの、四輪事業でも4.1%となり、ホンダ全体では6.8%となった。