(2)「貯金とは別に投資もしたい」
は要注意

 FOMOとは違う心理で起きるNISA貧乏についても考えてみましょう。投資のリスクを気にしすぎる心理が働くと、別の形でのNISA貧乏がおきるかもしれません。

 政府が新NISAを通じて暗に国民に訴えているメッセージは「貯蓄から投資へ」です。

 日本人は金融資産の大半が預貯金で、株式や投資信託などのリスク資産には15%程度しか投資をしていないことが、老後資金の不足を生んでいると言われてきました。この状況を新NISAで打破したいという話です。

 とはいえ株式のリスクを怖いと考える人はたくさんいらっしゃいます。つい先月も、4月中旬から4月末にかけてS&P500が▲5%も値下がりする局面がありました。マグニフィセントセブンの一角であるテスラはEVの価格競争のせいで年初から▲26%も値下がりしています。

 その心理から、投資に関しても「貯蓄とは別に行いたい」と考えてしまうのです。

 でも、仮に銀行預金が1000万円ある中流家庭で、投資も別枠で1000万円やってみたいと思ったら、当たり前ですが家計はきつくなるはずです。

 これはあくまで私の個人的な考えですが、このような友人から、「投資をどう始めたらいい?」と質問された場合に、私は、「まずその1000万円の銀行預金を一年かけてリスク投資に振り替えることから始めたら」と言うことにしています。

 経済の世界では過去30年間にリスクの研究がかなり進んで、株式のリスクの正体はわかってきました。

 あくまでアメリカ株のS&P500のように市場が合理的なルールで動いている場合の話ではあるのですが、S&P500のような平均株価は毎日の市場ではランダムウォークと呼ばれるどちらに行くかわからない動きをしながら、2年、5年という長期では上昇していくことが知られています。

 これを例えると、富士山の頂上から大きさ2mぐらいのビーチボールを下に向かって投げた場合と似ています。ごろごろと転がりながらどっちに転がるかは予測できませんが、長期的には高い確率で裾野まで落ちていくでしょう。

 なぜS&P500がそうなるのかを説明すると、500社のそれぞれの会社の中には儲かって成長する会社もいれば、衰退したり、場合によっては倒産する会社も出てきます。しかし500社集めるとそのリスクは平均化します。

 では平均値はどちらに動くのかというと、500社はアメリカ経済の一番上ずみの大企業ですから、アメリカ経済が成長する限りは平均では成長します。しかもアメリカの大企業は、ほぼほぼ世界市場で稼いでいますから、アメリカよりも高い世界経済の成長率で成長します。

 そしてこれは社会問題になっているように、大企業は中小企業や貧しい人たちから搾取していく分、経済成長の平均よりも成長率は高くなる。これがビーチボールが富士山から転がるように、過去平均で年率10%でアメリカの平均株価が上昇し続けているからくりです。

 だから1000万円の資金があれば12分割して一年かけてS&P500に資金を移していけばリスクは少なくて済むものです。例外が運悪くリーマンショックの一年前に投資を始めたような人ですが、それでも6年我慢すれば元の水準に戻り、そこから後は資産は安定して増えていき今では3倍以上になっているはずです。

 こういったことは、知識だけでなく、40年以上株式投資をやっていれば経験的に皆が知っていることですが、新規で新NISAを始めたばかりの人はそれがわからないことですし、リスクが怖いと思うのです。

 それで安全な預金には手を付けずにプラスアルファで投資を新たに始めてしまう。そうなると家計が苦しくなるのは当然だといえるのです。