(1)取り残される恐怖(FOMO)

 最近、新NISAで投資を始めたばかりの人について経済のプロとして感じることがあります。それは「難しいタイミングで投資デビューしたなぁ」という感想です。

 新NISAで人気のアメリカのS&P500連動型の投資信託を例にとってお話ししましょう。とにかく過去1年間で値上がりしているのです。

 ちょうど1年前の5月に投資を始めた人から見れば、この1年間でS&P500指数は28%も値上がりしています。しかも昨年の5月に1ドル=136円台だった為替レートは直近では1ドル=156円台に円安が進んでいます。

 ですからS&P500連動型の投資信託を1年前に買った人は、たった1年で46%も投資資金を増やしていることになります。昨年5月に旧NISAで100万円投資をした人は、今頃46万円の利益を手にして喜んでいるのです。

 過去40年以上、株式投資を経験している私の目から見ればこれは異常な現象です。

 アメリカのトップ500社に投資をしたらわずか1年で5割近くも財産が増えるなどということは普通はありません。1年で期待できる利回りは平均すれば10%程度です。46%というのはそれを地道に4年間投資し続けて得られるレベルです。

 逆に言えば、4年分の利益をわずか一年で得られたということはバブルが起きているということです。そしてそれは市場参加者のコンセンサスでもあります。今、株式市場ではAIバブルが起きていて、NVIDIAを筆頭にアップル、グーグル、マイクロソフトといったマグニフィセントセブンと呼ばれる銘柄が株価をけん引しているのです。

 このAIバブルは新NISAが始まった今年1月以降も継続して進行中です。

 1月に始めた人がS&P500連動型の投資信託を買っていたとして計算しても5月下旬時点では24%も儲かっている計算になります。4月にはマイクロソフトやグーグルなど主だったIT企業が好決算を発表し株価は上昇。今週のNVIDIAの好決算でさらに株式市場は上に向かっていきそうです。

 そのように株価が急騰する市場では参加者の間に「チャンスを逃すことを恐れる」心理が生まれます。英語ではFOMO(Fear of Missing Out:取り残される恐怖)というのですが、米国株投資をやっていない状況を避ける心理が働くのです。

 この心理から新NISAを始めた人のうち、こういった事実を知っている、ないしは知ったばかりの人は手始めに、まずはなるべくたくさんのお金を投資につぎ込もうとします。つみたて投資枠では上限の月10万円をとにかく乗り遅れないようにアメリカ株につぎ込む心理が働くのです。

 ここは難しいところだと正直思います。

 もし私が新人投資家の立場でかつ、私のような経済知識を持っていたとしたら、私個人は新NISAにできるだけ手持ちの資金を移すはずです。なぜならAIブームは当分続きますし、円安傾向も年内は続くだろうと考えているからです。

 とはいえFOMOの心理で取り残されないように瞬間風速で過剰に資金を投資に回すのですから、当然、手持ち資金は少なくなり、日々の生活では節約が必要になるのは当然です。この心理で起きたNISA貧乏はある意味確信犯的であり、ある意味一時的なものと言えるのかもしれません。