シャープが堺工場の稼働を停止し、データセンターへの転用を目指すという。しかし、その実効性は透明だ。液晶分野からの撤退は表明しなかった。中小型の液晶パネル事業でリストラを実行し、赤字の縮小を目指すという。まだシャープの先行きを懸念する声が多いのはなぜか。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
鉄鋼→液晶パネル→データセンター?
大阪・堺工場の栄枯盛衰
5月14日、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のシャープは、大阪府にある堺工場の稼働停止を発表した。この工場は、テレビ向け大型パネルの最新鋭工場として設立されたが競争激化に勝てず、今秋に生産を停止しデータセンターへの転用を計画している。
実は、堺工場の役割が変化するのは今回が初めてではない。わが国の高度成長期、堺工場の地では八幡製鉄(現日本製鉄)が製鉄所を運営していた。1990年初めのバブル崩壊などで鉄鋼業界の国際競争力が低下し、八幡製鉄は合併を重ね現在の日本製鉄になった。それに伴い、堺製鉄所は役割を終えたのだ。
その後2007年、シャープが堺製鉄所の用地を取得したことで、製鉄所が大型液晶パネル工場に変わった。そのわずか数年後、リーマン・ショックが発生して世界中が不況に陥った。一方で中国のパネル産業は政府の支援もあり、急速に競争力を高めた。しかし、シャープの液晶事業は競争力を失った。堺工場の歴史は、世界の産業構造の変化を物語っている。
結果的に、シャープは成長戦略を転換することができなかった。今後、AI分野の成長が加速するなど、世界経済の構造変化のスピードは加速するだろう。企業は、迅速に経営資源を再配分することができるか、これまで以上に具体的なビジョンを持つことに迫られている。シャープの栄枯盛衰は、他社にとっても決して他人事ではない。