シャープに「実行力」はあるのか
中小型の液晶パネルでリストラ必至

 今後、シャープは堺工場をデータセンターへ転用することを検討している。背景にあるのは、AI分野の発散的かつ加速度的な成長への期待だ。ビッグデータを使った深層学習の強化で、AIの性能は飛躍的に向上する。そんなAIのトレーニングセンターとして、データセンターの建設が世界で急増している。

 データセンター需要は高まりこそすれ、低下することはないだろう。シャープは内外の有力IT企業と連携して、データセンターの建設を検討するとみられる。それに伴い、高性能サーバーの運用体制を整備することも必要だ。シャープはデータセンターの処理能力を高め、収益性を高めるのに必要な資金を捻出するため、資産売却も強化するだろう。

 重視したいのは、この戦略の実行性だ。実はまだ、不確実な部分も多い。シャープは5月14日、24年3月期の決算を発表する場で、液晶分野からの撤退は表明しなかった。スマホ、車載用など中小型の液晶パネル事業でリストラを実行し、赤字の縮小を目指すという。同社が、液晶事業の傾注を解消することは容易ではなさそうだ。

 一方、世界の産業構造の変化は加速している。スマホ需要が飽和したことで、大型から小型まで、世界全体で液晶パネル分野の競争が激化している。例えば20年3月、韓国のサムスン電子はテレビ向け大型液晶パネルから撤退方針を表明した。

 世界全体で、データセンター運営に必要なAIチップの供給が需要に追い付いていない。堺工場がデータセンター転用を目指すのは意義のあることだ。しかし、シャープという企業の実態、液晶事業の傾注度から、その実現はそれほど簡単ではないだろう。

 今後の展開次第では、中小型パネル事業のリストラに時間がかかる恐れもある。強烈な経営風土で知られる鴻海が買収しても、シャープを経営再建することは難しかった。シャープの先行きを懸念する主要投資家は多く、堺工場の生産停止発表後、株価は下落した。※5月27日現在、株価はやや回復傾向

AI向けデータセンターをつくる!で株価下落…投資家が見抜いた「シャープの根本的な病」台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘董事長(左)とシャープの高橋興三社長(肩書は当時) 大阪府堺市にて2016年4月 Photo:JIJI