「ChatGPT」の登場以降、世界的にユーザーが爆増している「生成AI」。その性能の鍵を握るのがデータセンターだ。AI半導体を搭載した高性能サーバーを数千台規模で収容する大規模データセンターでは、光通信や熱処理に関連する機器の需要が高まっており、それらを供給するメーカーに株式市場の注目が集まっている。(QUICK Market Eyes コメントチーム 阿部哲太郎)
大規模データセンターが世界で急拡大
米メガテックが巨額投資を続々発表
生成AIの性能の鍵を握る大規模データセンターへの設備投資が加速する中、データセンターに欠かせないシステムを供給するメーカーに“特需”が訪れている。
イスラエルの市場データ解析大手シミラーウェブによると、生成AIの先駆けであるChatGPTのユーザー数は、2024年4月に世界で1億8050万人に達した。
ChatGPTを開発した米オープンAIに出資するマイクロソフトだけでなく、メガテックと呼ばれるグーグル、アップル、メタ・プラットフォームズ、アマゾンなど米国の巨大IT企業も、それぞれ生成AIを独自に開発し、一般ユーザーだけでなくビジネスユーザー向けのサービスを拡充しようとしている。
今後、企業や行政機関でも生成AIの導入が進むと予想され、生成AIサービスへのアクセス数が爆発的に増加すると予想されている。
米巨大テックのように100万台を超える膨大な数のサーバーを保有する企業は「ハイパースケーラー」と呼ばれる。こうしたハイパースケーラーなどが運営する、数千台規模のサーバーを収容する大規模データセンターは、「ハイパースケール・データセンター」と呼ばれる。
米市場調査会社シナジーリサーチグループの推計によると、同社がハイパースケーラーに分類した世界19企業が運営する大規模データセンターの数は、24年初めに1000カ所の大台を突破した。
新型コロナウイルス禍後に、マクロ経済環境の悪化によるリストラで投資を抑制していた米ハイパースケーラー大手は、23年からデータセンター投資を再開している。生成AIの主導権争いで、米国のみならず世界中にデータセンターを建設中で増設計画を発表している。
アマゾンは3月、今後15年で1500億ドル(1ドル=150円換算で約22兆5000億円)をデータセンターに投じると発表した。マイクロソフトも、オープンAIと共同で1000億ドル(同約15兆円)規模の大規模データセンターを建設すると報じられた。
特に、クラウド需要が大きく伸びる日本でのデータセンターなどへの投資が相次いでいる。クラウドサービス世界最大手のアマゾン・ウェブ・サービスは27年までの間に日本に約2.3兆円を投資すると発表した。マイクロソフトも4月、今後2年間で29億ドル(同約4350億円)を日本でのAIやクラウド基盤の強化に投資すると発表した。グーグルは23年4月、千葉県印西市にデータセンターを開設した。同社として初めての日本国内のデータセンターとなる。
さらに、米オラクルも、この先10年間で日本国内のデータセンターに80億ドル(約1兆2000億円)を投資する計画を発表した。アマゾン、マイクロソフト、グーグルの計画と合わせ、米巨大ITの対日データセンター投資額は4兆円を超える。
AIサーバーへの対応で求められる新技術
最大市場の米国でデータセンター銘柄が急騰
生成AIなどの広がりによって、データのトラフィック(通信量)はますます加速する。総務省の「情報通信白書」(令和5年版)によると、世界で生成されるデータ量は20年の44ゼタバイト(ゼタは10の21乗倍)から、28~36年に約20倍以上になる見込みとなっている。
増大するデータトラフィック量のうち、8割はデータセンター内やデータセンター同士の通信とされている。データの学習や推論を行うAI半導体、すなわち「GPU(画像処理半導体)」を搭載したサーバー間の相互の通信量が急増するからだ。
大規模データセンターの課題は大きく二つある。一つは、光ファイバーケーブルなど大容量データ送信に適した機器や設備の導入だ。生成AI向けに建設されたデータセンターでは、従来のデータセンターに比べて光ファイバーケーブルの配線量が大幅に増える。
もう一つは、GPUサーバーなどから出る熱の処理だ。半導体は発熱体であり、その熱をコントロールしないと故障や「熱暴走」と呼ばれる誤作動が発生する。データセンターの消費電力のうち約50%はサーバー向けだが、25~30%は電源と冷却系統が占めるとされており、AIサーバーの増加で省電力の観点からも「熱マネジメント」の重要性が増している。空冷や水冷などによるサーバーの放熱を含め、データセンターから熱を除去するシステムが欠かせない。
このように大規模データセンターでは「光通信」と「熱マネジメント」がキーワードであり、これに関連した機器を供給する企業にビジネスチャンスが広がっている。
大規模データセンターで世界最大の市場である米国に目を向けると、光電子部品などの製造を手がけるコヒレントとITインフラ機器のバーティブ・ホールディングス(HD)に投資家の注目が集まっている。
コヒレントは光関連部品やレーザー機器、半導体材料を手掛けるメーカーだ。データセンター向けでは、電気信号と光を相互に変換する光トランシーバーに強みを持つ。大容量化するデータセンターに対応した、次世代光トランシーバーの需要拡大が見込まれる。バーティブHDは3月に、米エヌビディアとデータセンター向け液冷システムの展開で協業すると発表した。データセンター向けの受注の急増も評価され、株価上昇が続いている。
次ページでは、「光」と「熱」を軸に高い技術力を持つ日本企業6社について、それぞれ強みとなるポイントとともに、今期と来期の予想営業増益率を、銘柄表にまとめて紹介する。