2010年を機に
「ナットを回す向き」が逆に!

 もう一つの有力な説は、2010年に起きた「ホイールナットの規格変更」です。

 大型車のホイールナットはそれまで、国内規格の「JIS方式」に準拠していました。JIS方式では「タイヤの回転方向と逆方向に締めるとナットが緩みにくくなる」という考えのもと、一般的なナットとは正反対の「左に回すと締まる『逆ねじ』」をあえて採用していました。

 ですが、海外輸出時に不利になることを防ぐ目的や、コスト削減や作業性向上などの目的で、2010年を機に世界標準の「新ISO方式」へと変更されました。この規格に準拠したホイールナットは、一般的なナットと同じく「総輪右ねじ(=右に回すと締まる)」の仕組みになっています。

 ただし、新旧の規格に基づくホイールナットは、単に「回す方向」が異なるだけではなく、ホイールを固定する機構が微妙に違っていました。JIS方式のナットは「球面」になっており、ホイールに食い込む構造でしたが、新ISO方式のナットはホイールと接触する部分が「平面」になっており、横からまっすぐ押さえる方式になりました。

「食い込む」と「押さえる」――。専門家の中には、この微妙な違いに基づく「固定力」の差が、先述した「左に傾いている道路構造」などと相まって、「左後輪」が外れる事故につながっていると考える人もいます。とはいえ、この説も正しいと立証できたわけではありません。

 タイヤが外れる事故を減らすために、ホイールナットの規格を「元のJIS方式に戻せばよい」と考える専門家もいますが、新ISO方式の導入は、当然ながら国交省による念入りな確認作業や検証実験が行われた末に決められました。もちろん「安全性に問題はない」という結果が出たからこその規格変更であり、明確な原因が特定できていない状況下での対応は、なかなか難しいようです。

 国交省は今後も「(左後輪の脱落は)引き続き検討すべき課題として、監視・調査・対策を行う」としています。