欧米の金利上昇により、多くの国内金融機関が外債運用で多額の含み損を抱え、2024年3月期決算で売却損を計上した。そんな中、巨額の債券売却益を計上したのが、愛媛県の伊予銀行だ。なぜ他行に大差をつけることができたのか。特集『銀行危険度ランキング2024』(全6回)の最終回では、いよぎんホールディングスの三好賢治社長に、海外の金利上昇を味方に付けられた背景や、今後の運用方針を聞いた。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
伊予銀行が異例の債券売却益
それでも「勝負に出た感覚ない」と語る理由
「海外金利が上昇した影響で、ほとんどの銀行は外債の含み損が膨らんだ。そんな中、2期連続で巨額の外債売却益を出しているのは異例中の異例だ」
岡三証券の田村晋一アナリストは、他行と一線を画す伊予銀行(愛媛県)の外債運用についてそう評す。
国内の低金利下で外債の運用を増やしていた各行は、2022年からの海外金利上昇により多額の含み損を抱え、続々と売却損を計上した。債券投資の損益を示す「国債等債券損益」は、本特集#1『銀行危険度ランキング2024【全105行】下位5位のうち3行が同一県内の地銀、ワースト1位は?』で対象とした全105行のうち95行がマイナスだ。中には静岡県の清水銀行のように、外債を全て売却して59.7億円の損失を計上し、30.7億円の赤字に陥った銀行もある。
多くの銀行が外債運用に苦心する中、2位の南都銀行(奈良県)に10倍以上の差をつけて国債等債券損益ランキングのトップに躍り出たのが伊予銀行だ。
なぜ他行とこれほど大きな違いが出ているのか。田村氏は「欧米の金利上昇が本格化する前の早い段階から、ヘッジなし外債の残高を増やしていたからだ」と指摘する。
為替ヘッジについて簡単に説明しよう。仮に外債購入後に円高が進んだ場合、外国通貨の価値は円と比較して下がるので、円に換金するときに損失(為替差損)が発生してしまう。この円高による為替差損を、外貨と円の短期金利差に相当するヘッジコストを支払うことで、あらかじめ一定程度回避(ヘッジ)できるのが為替ヘッジだ。
一方、ヘッジなしの場合、円高になれば為替差損を被るが、円安になれば為替差益を得られる。伊予銀行は円安が進む前からヘッジ付き外債の残高を減らし、ヘッジなし外債の残高を増やしていたことによって、多額の為替差益を享受できたわけだ。
では、この運用は円安が進むことを見込んだ“ばくち”なのか。いよぎんホールディングスの三好賢治社長に尋ねると「勝負に出た感覚は全くない」ときっぱり。
次ページでは、伊予銀行が円安前からヘッジなし外債の残高を増やしていた背景から、同行が国内債の投資を復活させる長期金利の水準、さらには政策保有株の純投資目的への切り替えの真意まで、運用巧者の実態を三好社長に詳しく聞いた。