三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第98回は、「会社四季報」や新聞など紙媒体からの情報摂取のノウハウを伝授する。
新聞を読む10代はたった1%
主人公・財前孝史はひょんなきっかけで同級生の松井が重度の「四季報マニア」であることを知る。松井は「2・26事件」があった1936年創刊の全上場企業を網羅する刊行物が世界的にもいかにユニークな存在か、熱弁をふるう。
以前、このコラムで就活中の学生に「会社四季報」(東洋経済新報社)の通読をオススメした。その名の通り、年4回発行される上場企業の状況をまとめ定期刊行誌であり、本来、通読を想定したものではないが、「すべての上場企業のある瞬間の断面図」に目を通すことは、確実に視野を広げる。
就活生の通読には紙バージョンを、しかも「就職用四季報」ではなく通常の四季報を勧める。腰をすえて取り組むつもりなら目に優しい大判サイズが良いかもしれない。ちょうどこの時期に出る「夏号」が、3月期決算企業の最新情報が充実している。
なぜ「紙の四季報」を私が勧めるかといえば、他人が触れていない情報を体系的に仕入れるのに適しているからだ。今どき情報収集はスマホ、せいぜいPCまでだろう。だからこそ、紙媒体の方が摂取しやすい情報の価値は高まっている。単に投資に使うなら、スクリーニングや外部リンクなどの機能が充実しているネット版の方が便利だ。
そういう意味では今や、紙の新聞も「誰も見ていないからこそ価値がある」というメディアになりつつある。新聞を読む人の割合は10代では1%前後、20代でも3%程度まで落ちている。
ニュースを読むのはもっぱらネットという時代だから、この数字にいまさら驚きはない。ネット上で新聞やテレビを指す「マスゴミ」なる言葉が定着して久しい。偏向報道や記者クラブ制度への批判も根強い。そんな評価とスマホ依存が相まって、新聞離れが進んでいるのだろう。
新聞はめくって眺めろ
だが、紙の新聞という情報パッケージの有用性は侮れない。
まず「脱タコツボ」。AIによるキュレーションとトラフィックを稼ぎたいメディア側の都合で、SNSやネット媒体はエコーチェンバーにはまり込みがちだ。その点、紙の新聞にはいろんな分野の硬軟・大小多様なニュースが盛り込まれている。「読みたい記事」は少ないかもしれないが、毎日10分、パラパラとめくって見出しを読むだけで、タコツボ状態は緩和できる。
大きな紙面の一覧性と紙面構成の「メタ情報」も大きな価値だ。紙の新聞は、見出しの大きさやレイアウトによってニュースバリューの重みづけをしている。見出しだけでも現在の重要テーマをざっくり把握できる。
私自身は朝食時に日経新聞を「めくって」いる。気になった記事はとっておいてスキマ時間に読む。総接触時間は20~30分程度。同等のニュースチェックにはネットなら数倍の時間がかかるだろう。日経退職前は国内外の各種メディアのチェックに2時間程度はかけていたが、今はそんな暇はない。紙の新聞は便利で頼りになる。
ネットには「新聞は読むほど馬鹿になる」といった言説もあふれているが、影響を受けるほど読み込む時間はないし、ほとんどの記事は精読する類いのモノではない。新聞は眺めるものなのだ。
実はこの辺りの新聞活用のノウハウをまとめた本を現在執筆中。年内出版を目指しているので、ご期待ください。