まず、親が起業家である場合は、その子どもが起業家になる可能性が高まることが示されてきました(Dunn & Holtz-Eakin, 2000)。その理由としていくつか考えられます。

 第一に、起業家を親に持つ子どもは、そうでない子どもよりも、幼少時代に起業活動について学ぶ機会が多く存在するというものです。また、起業家のロールモデルに接する機会が多く、さまざまな情報、ネットワークなど、起業活動に役立つ資源を親から受け継ぐことができる点が挙げられます。

 世代間で受け継がれるのは、起業に関連する経験や資源だけではありません。起業文化も受け継がれることを示唆する研究があります(Kleinhempel et al., 2023)。ある国で生まれ育ちそこで教育を受けた、他国出身の両親に育てられた移民2世の起業選択について検証した研究があります。

 この研究によれば、移民2世は、両親が強い起業文化を持つ国の出身であれば、起業家になる可能性が高くなる傾向があります。人々が持つ起業に対する考え方は、世代間で受け継がれる可能性が高いと言えるでしょう。

双生児の大規模調査で見えた
「起業における遺伝影響は約4割」

 起業の意思は、親から子へ受け継がれる遺伝的要因にも影響されることを示す研究があります(Nicolaou et al., 2008)。

 英国の一卵性双生児と二卵性双生児の大規模サンプルに基づいた研究によれば、起業確率の約37%から42%が遺伝的要因によって説明できることが明らかにされています。同じ遺伝子を持つ双子のサンプルを用いることで、起業という意思決定が遺伝の効果なのか、共有された環境の効果なのか、共有されていない環境の効果なのかをうまく識別できると考えられています。

 遺伝的要素の他に起業活動に影響を与えるものとして、残りは共有されていない環境要因で説明できることが報告されています。

 起業活動における遺伝か環境かという問いについては、まだ研究が始まったばかりであり、必ずしも結論が出ているわけではありません。遺伝か環境かという命題に対する研究者の取り組は、今も続いています。