起業家が続々参入してくる
マーケットの特徴とは

 起業家は事業を開始する場所(地域)を選択するだけでなく、おそらくその前あるいは同時に、参入する事業分野を選択します。起業家は自身が持つ知識やスキルを生かせる分野を選ぶこともあるでしょうが、需要が見込める分野を選んだり、競争が激しくない分野を選んだりするかもしれません。起業の意思決定は、産業の特性からも影響を受けると考えられます。たとえば、高い利益が期待できそうな市場には新しい企業が多く参入する可能性が高いかもしれません。

 また、規模の経済性が大きい市場では、既存企業に比べて新しい企業はコスト面で不利であるため、なかなか参入できません。このように、新規にその産業に参入しようとする企業に対して既存企業が優位性を持つとき、参入障壁があると言います。逆に言えば、参入障壁が低い場合に、新しい企業が登場しやすいと言えるでしょう。

 さらに、産業にはライフサイクルがあります。産業ができたばかりの時期には多くの企業が参入して、その後一定期間が経過したのち急激に多くの企業が淘汰される時期を経て、次第に寡占的な構造(企業数が少ない状態)へと変貌することが歴史的に明らかにされてきました(Klepper, 1997)。

 産業の初期には、多くの企業によって新しい製品やサービスが生み出され、次第にその標準規格が定まっていく傾向があります。将来どのくらい需要が伸びるのかは必ずしも明らかではないという意味で不確実性が高い一方で、技術的にも不確実性があります。標準的な製品規格が確定していないために、起業家にとっては事業機会が豊富で成長の余地が多くあると言えるでしょう。そのため、産業の初期には多くの新しい企業が登場する傾向が、さまざまな産業において観察されてきました(Klepper & Simons, 2000)。

起業家の意思決定は
遺伝なのか環境によるものか

 生物学をはじめ自然科学の分野では、「遺伝か環境か」という命題が存在します。たとえば、子どもの発達において親からの遺伝の影響が大きいのか、育つ環境が重要なのかといった命題です。

 スタートアップの研究においても、類似した命題が存在します。起業家になるかどうかの意思決定に影響を与えるのは遺伝的要因が大きいのか、それとも環境的要因が大きいのかという点がたびたび議論になります。果たして、どちらの要因が大きいのでしょうか。